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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和5年1月によせて

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

人口減少と物価上昇

 

カタールで開催されたサッカーワールドカップの余韻が冷めやらぬ12月中旬、日本銀行(日銀)の長期金利の変動許容幅を従来の0.25%から0.5%に拡大するというニュースに注目が集まった。デフレ脱却(賃金の上昇を伴った安定的な物価上昇)と持続的な経済成長を目指して超低金利政策を続けてきた日銀の方針転換ではないかという憶測が飛び交った。為替は一時急激な円高に振れ、株価は急落した。近年、コロナショックやウクライナ危機などいくつかの要因を背景に、世界の物価は上昇した。超低金利政策がひとつの要因となった過度な円安傾向も加わり、わが国の物価も上昇した。しかし、賃金の上昇を伴わない状況での物価上昇であり、家計への負担が懸念されている。

今回のニュースを聞いて、数年前に書いた医事新報の「少子化と研究」という小品を思い出した。日銀の物価安定の目標である(賃金の上昇を伴う)消費者物価の前年比上昇率2%の目標に対して、「少子高齢化により急激な人口減少が生じているので、物価上昇は難しいのではないかと思う。」と書いた。少子化対策が重要課題であることを強調するために、当時アベノミクスで話題となっていた日銀の目標を取り上げたのだ。ただし、急激な人口減少下で物価上昇は難しいのではないかと思うのは門外漢の直感で、根拠があるわけではなかった。気になったので、最近の議論をインターネット上で調べてみると、人口減少国でも物価は上昇する(賃金上昇にはふれていない)、デフレは人口減少が原因ではないなどの反対意見も出され、以前より活発に議論されているようだ。フランスの歴史学者エマニュエル・ドットに代表される人口統計に着目した方法論が注目されていることもあり、賃金、物価と人口統計に関係する研究を一層進めてほしいと思った次第である。