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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和6年2月によせて

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

「災害と水道インフラ」

 

大きな被害をもたらした能登半島地震は、2月1日、発生から1カ月を迎えた。空港や一部の
学校の再開など、復興に向けた足音が聞こえ始めたが、断水など生活インフラは整っていない
と報道されている。今回の震災では、あらためて水道インフラの重要性が突き付けられた。

水は生命の維持に不可欠であり、日常生活、産業活動にも多量の水を必要としている。「水
をろ過して供給すると水系伝染病だけでなく一般の死亡率も減少する」といわれており清潔で
安全な水を供給する近代的水道事業は社会にとって不可欠となっている。水道法では「清浄に
して豊富低廉な水の供給を図り、もつて公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与することを
目的とする。」と記載されている。水道の水は、生命維持以外に洗顔、入浴、炊事・調理、
掃除・洗濯などの生活用水としても使用される。東京水道局によると、令和元年、家庭では
1人あたり1日に平均214リットル程の水を使用している。これは2リットルのペットボトルで
107本分に相当する。

このように社会に不可欠な水道事業であるが、水道管等の破裂、破損、抜け出しなどによる
事故が毎年2万件以上発生しており、老朽化対策が必要となっている。日本の地下には地球17周
に相当する約70万㎞の水道管が埋まっているが、そのうち約14%が既に法定耐用年数を超え、
今後20年間では全体の23%の更新が必要と見積もられている。水道管路の耐震化対策も重要
な課題である。19都道府県で約257万戸を超える世帯が断水した東日本大震災以降、水道管の
耐震化は重要課題として挙げられている。しかし、基幹管路の耐震化率の現状は、都会で40%
以上、地方では20%台である。能登半島地震にみるように、水道インフラの地震に対する備え
は十分ではない。一方、人口減少などによる水道事業の収益悪化は水道の老朽化・耐震化対策
の大きな障害となっている。このような背景があるため、国は厚労省が管轄する水道行政を、
国土交通省と環境省に移管した(2024年4月より施行)。

蛇口をひねれば出ることがあたり前になっている水だが、清浄な水はきわめて貴重な資源で
あることはいうまでもない。その資源を守り有効に活用するため、私たちは水道事業に関心を
持ちその課題を共有する必要があるだろう。