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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和6年5月によせて

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

「高温と慢性腎臓病」

 

気象庁は、5月1~9日の間は10年に1度程度の著しい高温となる可能性が高まってい
るとして「早期天候情報」を発表した。昨春の5月もゴールデンウイークを含めて高温
との予報で、夏の猛暑で知られる埼玉県は、4月28日に早くも熱中症予防の注意喚起を
行っていた。暑さへの注意喚起は年々早くなってきているようだ。当センターでも例年
6月に開催していた職場の熱中症対策の研修会を今年は5月開催に変更した。

高温による急性の健康影響として熱中症がある。放置すれば脱水や体温上昇により、
多くの臓器に機能障害が生じ、生命を脅かす。その予防対策が重要課題であることは
言うまでもない。一方、高温環境の慢性的な影響も懸念されはじめた。きっかけは、
1990 年代にエルサルバドルの農業従事者にみられた慢性腎臓病とさらに悪化した腎不
全による死亡である。彼らは、40℃を超える気温の中、厚着をしながらサトウキビを
一日何トンも収穫する労働を行っていた。調べると、中央アメリカの高温多湿な農村
地帯で同様の死亡例が多いことが明らかとなった。その後、北米、南米、中東、アフ
リカ、インドでも同様の事象が観察されている。専門家は、従来の腎臓病の要因(糖
尿病や高血圧など)とは異なる要因が関与しているとして、気候変動による気温の急
激な変化、熱ストレスが一因となって生じた可能性を示唆している。日常的な高温ば
く露と重労働、栄養不足等により、日々微細な腎臓の障害が引き起こされ、これらが
累積されて慢性腎臓病を生じるという仮説である。マウスの動物実験でも、熱ストレ
スと脱水症状に繰り返しさらされると、マウスの腎臓において慢性炎症と尿細管損傷
が生じることが報告されている。

わが国の慢性腎臓病は徐々に傾向し、患者数は1500万人と推計され、新たな国民病
といわれている。高齢化と糖尿病、高血圧などの生活習慣病の増加がその背景にある。
最近、某製薬企業のサプリメントとの関連でも注目されている疾患である。猛暑に襲
われるわが国でも、高温ばく露と慢性腎臓病の関連に着目する必要があるだろう。