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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和6年8月によせて

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

「夏を乗り切る、経口補水液」

 

気象庁によると今年の7月は、記録を取り始めて最も暑い7月だった。7月初旬、
梅雨の合間の蒸し暑い日に外出した。1時間ほどだったが、びっしょり汗をかいた。
部屋に戻ってからも、汗はしばらく出続けた。水分補給としてペットボトルのお茶
を飲んだ。その日の夕方、こむら返りをおこし、ふくらはぎが痛く寝つきがわるか
った。2日間ほど体が重たく感じた。水分だけ補給して、塩分が不足する状態の軽
度の熱中症だったのだろう。暑熱に慣れていない状態では、体液と同等の高濃度の
塩分を含む汗が排出される。暑熱に慣れる(熱順化)と汗腺で塩分は再吸収され、
塩分低濃度のサラサラな汗をかくようになる。梅雨時のまだ熱順化していない状態
だったので、高濃度の塩分が排出されていたのだろう。この時の水分補給は、経口
補水液にすればよかったと後悔した。

経口補水液は、WHOなどが小児の感染症や熱中症による脱水症状の処置として
推奨しているドリンクで、一般に市販されているスポーツドリンクよりも塩分濃度
が高く、糖分は控えめである。充分な医療設備がない発展途上国で、点滴と同等の
効果が期待できるとして広く用いられている。わが国では某製薬メーカーからWH
Oの基準に近い経口補水液が市販されている。20年ほど前、医学部の社会医学実習
で熱中症対策をテーマとしたグループを担当し、当時発売されはじめたこの経口補
水液を話題として取り上げた。この実習に参加していた学生の中に剣道部員がいた。
彼によると、前年の真夏に開催された西日本医科学生総合体育大会(西医体)中、
スポーツドリンクで塩分・水分補給をしていたが、3試合目ぐらいから多くの部員
が疲労困憊となったとのこと。おかげで、成績は今ひとつだったという。真夏の冷
房設備のない体育館内での剣道の試合、想像以上の多量の汗をかき、塩分の補給が
足りなかったと考えられる。そこで、その年の西医体にのぞむ剣道部員に教育・研
究用に準備していた経口補水液数十本を持たせた。結果は見事優勝であった。ただ、
その勝因が経口補水液の効果によるものなのか出場部員の技量の向上によるものな
のかは定かではない。