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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和10月によせて

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

「ピンクリボン運動」

 

毎年10⽉はピンクリボン月間、胸元にピンク色のリボンをつけることで乳房チェックや
定期検診をうながし、乳がんに対する意識を高めることを目的として行われる世界規模
の啓発キャンペーンである。

全国がん登録データによると、女性の乳がんの2019年罹患数(1年間に新たに乳がんと
診断された数)は97,142人であり、この30年間で、年齢調整罹患率が2倍近く増加し、女
性で1番多いがんである。また、2019年の人口動態統計による女性のがん死亡数は156,0
86人であり,このうち乳癌は14,839人であった。全がん死亡に占める乳がんの割合は9.5
%であった。一方で、乳がんは自分で見つけやすい病気で、早期発見であれば約9割の人
が治癒すると考えられている。

ピンクリボン運動では、女性自身が自分の乳房の状態に関心をもち生活する健康教育
として「ブレスト・アウェアネス」の啓発が進められている。ブレスト・アウェアネスは
「乳房を意識した生活習慣」と定義され、その実践に際しては次の4つのポイントが挙げ
られている。①自分の乳房の状態を知る。②乳房の変化(しこり、血性乳頭分泌、皮膚
陥凹等)に気を付ける。③変化に気付いたらすぐに医師に相談する。④40歳になったら
2年に1回乳がん検診を受ける。

30年ほど前、スウェーデン留学中、ストックホルムの乳がん病棟の医療関係者と議論
する機会があった。当時のスウェーデンでは、女性のがんでは乳がんが最も多く、一方、
日本では、女性の胃がんが多かった。日本では、乳がん対策についてはあまり注目され
ていなかった。将来日本でも女性の乳がんが急増し、乳がんの診断・治療体制の整備が
必要になるだろうと感じた。日本の低脂肪の食事や女性の喫煙率が低いことが乳がん予
防に有効であることや、ブレスト・アウェアネスに関する議論をした記憶がある。

日本人女性の乳がんの年齢調整罹患率は、この30年間で急激に上昇し、女性のがんで
最も多いがんとなった。一方、欧米諸国に比べて罹患率は2分の1程度で、年次推移をみ
ると、近年横ばいになってきた。年齢調整死亡率は、欧米諸国の2/3程度である。年次
推移は、増加傾向が近年になり緩やかになったところである。

ピンクリボン運動は、我が国では2000年代に入ってから一般的に認知されるようにな
った。ピンクリボンのはじまりは、アメリカの乳がんで亡くなられた患者の家族が、「こ
のような悲しい出来事が繰り返されないように」と願いを込めて作ったリボンだといわ
れている。日本でもその願いが伝わってきているようだ。