アーカイブ | RSS |
所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和7年3月によせて

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

『温室効果ガス削減』

温室効果ガス世界資料センターによると2023年の大気中の二酸化炭素の世界平均濃度は、
前年と比べて2.3ppm(0.00023%)増えて420ppm(0.042%)となっている。産業革命以
前の値と推定される約280ppm(0.028%)と比べて、1.5倍に増加している。大気中の二酸
化炭素などの「温室効果ガス」は、地球の表面から逃げようとする赤外線(780~10万nm
の波長域の光で熱作用を有する)を吸収し、さらに赤外線を放出したりする。放出された
赤外線の一部は地表面に戻ってくるので、温室効果ガスには地表面付近をあたためる効果
があるとされる。プリンストン大学の真鍋淑郎博士は1960年代からこのような温室効果ガ
スの物理的作用と気象要因を考慮したシンプルなモデル(気候モデル)を作成して地球の
気温を計算した。試みに大気中の二酸化炭素濃度が当時の0.035%から2倍に増えるとどう
なるか計算したところ、地表付近の温度が2℃程度上がるという結果を得た。これが、地球
温暖化に関する研究の始まりと考えられている。真鍋淑郎博士は、2021年に気候モデルの
業績でノーベル物理学賞を受賞された。

公害などの環境問題に苦しんだ歴史のある日本は、京都議定書の策定に尽力するなど地球
温暖化対策に意欲的に取り組んできた。京都議定書とは、1997年12月に定められた気候変動
への国際的な条約である。先進国の排出する温室効果ガスの削減について、法的拘束力を持
つ数値目標が設定された。京都議定書の後継である「パリ協定」では先進国・途上国関係な
くすべての締約国が対象となって温室効果ガスの削減目標を示すことになっている。今年の
1月、温室効果ガスの排出量が世界第2位のアメリカで、「パリ協定」から離脱する大統領
令が出された。「パリ協定」がアメリカ経済に悪影響を与え、不公平な負担であることを理
由に挙げている。これに対応して国連事務総長は「アメリカ国内の都市や州、企業が他の国
々とともに、低炭素で強じんな経済成長に取り組み、引き続きビジョンとリーダーシップを
発揮することを確信している。」とコメントしている。

日本は新たな温室効果ガスの排出削減目標を「2035年度に2013年度比60%減、2040年度
に同73%減」に決め国連に報告した。ただ、産業革命からの気温上昇を1.5℃以内に抑える
「パリ協定」の水準(日本では2013年度比66%に相当するとされる)を下回ることになる
ので、日本の姿勢に批判があることは知っていたほうがよいだろう。