所長のメッセージ
: 平成28年10月によせて
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
最近、新卒採用の若い労働者が就職した後、間もない期間(=1ヶ月~1・2年)に退職してしまうことが散見されます。
彼らの特徴は、学生時代には自由がたくさんあった(自由すぎる教育の課題もある)が、就職してみると自分の自由裁量が少なく、決められたことを指示されて働くことが不得手であることや、慣れていない作業をすることはいやだと拒否反応として、容易に離職してしまいます。
しかし、イヤな仕事以外で興味のある会社のイベントや同僚との夜のつきあいには、それほどイヤがらずに参加・同行するので、こうした行動は採用した企業の上司や管理者にとって理解できない行動の為、メンタルヘルス上で「職場不適応」と扱われてしまう”いわゆる新型うつ病”と言われる事例です。
これは、脳の代謝異常(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン等の乱れ)によって、感情・意欲などの生活機能が全般的に低下したり、食欲不振・体重減少、過食、 めまい、性欲減退などの身体症状が目立つ従来型のうつ病とは異なります。新型うつ病とは心で病む(悩む)という普通の気分が低下した状態なので、悩み事意以外は通常通りに行動し、生活機能は特定の領域(現在の自分のやりたくない仕事など)のみ機能が低下するだけであり、精神障害とは明確には言われません。
自分のペースで行動することが大事であり、邪魔されたくなく、自己愛が強く、傷つきやすく、労働量が人はどうであれ自分にとって過重であれば、心の負担を感じ疲労感を覚えるのです。また、仕事がうまくいかないと人のせいに責任転嫁したり、更に飲酒やギャンブル等は可能でも、就職前に考えていた仕事内容とのギャップがあると嫌がったり、拒否反応が態度に表れるので、こうした行動は上司や同僚にしてみれば、怠けているように見える為、今どきの若いヤツは頑張らないと愚痴ってみたり、精神的におかしいのではないかと精神科への受診をさせた方が良いと考えるようになります。しかし”いわゆる精神病”ではないのです。
それでは、このような新型うつ病にどのように対応したらよいかが課題となります。
職場の上司は、採用後の初期段階ではそうでもありませんが、しばらくすると普段と違う行動(遅刻、早退、欠勤が増えたり、休みの連絡がない、ミスが目立つなど)に、まず気づくことが必要です。そして声をかけてあげたり、話を聴いてやることから、ゆっくり対応を行い、どうしてもうまくいかない場合や、必要な時には産業医等に繋ぐ対応をします。
新型うつに陥っている労働者は聴いてもらうことにより気持ちがすっきりしたり、自分のことが分ってもらえたという安心感を持てるようにします。精神療法の一部としては対象の労働者に自己をみつめてもらい、等身大の自分の受容を促し、長所を聴いて引き出し伸ばすように話し、短所を適切な方向に成長させるように説得し、意識づけには少し時間がかかりますが、相談にのってあげることです。その上で、自分(上司や同僚、あるいは家庭)には、手におえないと考えたら、産業医に相談することをお奨めします。
主治医は病院に勤務したり、開業しているので、診断書は書きますが公文書なので、患者(様)の不利益になるような内容は、患者の生活面にかかわる事や人権にかかわることもある為、記載いたしません。
一方、産業医は企業に採用されたり業務契約をしていますので、本人と直接面接し、相談にのったりすることが業務であり、必要があれば主治医と相談する等、適切に判断し対応してもらえると思います。
メンタルヘルス対策や、ストレスチェック制度の目指すところは、労働者が悩み、精神的に落ち込み、それが仕事に影響を及ぼした時、周りの人が適切に支援することが基本です。それでも解決できない時には、医療従事者と連携をとりながら対応する流れになると思います。