所長のメッセージ
: 平成30年10月によせて
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
治療と職業生活の両立支援によって私傷病(生活習慣病等)を抱える労働者が、就労することによって受療が困難となり、疾病が憎悪したり、がんの再発が起こることを未然に防ぐために、医療機関の受診を容易にするよう配慮することを事業主に求めるようになりました。
すでに労働安全衛生法では、事業主による労働者の健康確保対策に関する規定が定められています。これによって事業主は健康診断を実施し、その結果をもとに医師の意見を勘案し、必要があると認めたときは就業上の措置(就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜勤務の回数の減少等)をとることが義務づけられています。
治療と職業生活の両立を支援することは労働者の健康を確保するとともに、継続的な人材の確保、労働者の安心感やモチベーション向上による人材の定着、生産性の向上、健康経営の実現、多様な人材の継続的な活用による事業の活性化、社会的責任の実現、ワークライフバランスの実現といった意義もあります。
「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」によると、対象となる疾病は、「がん」のみならず「脳卒中」「心疾患」「糖尿病」「肝炎」「その他の難病」など反復・継続して治療が必要となる疾病であり、短期的治療で治癒する疾病は対象とされていません。
労働者が健康診断を受け異常を発見され医療機関で受診することにより、また、以前からの対象療法等の治療などにより、就業上の不利益な取り扱いを受けるのではないかという不安をおこすことのないようにすることが重要です。特に企業倫理の課題でもありますが、病気により解雇される等の不安と恐怖をもたせてはなりません。
労働契約法でも労働者への安全(健康)の配慮として、第5条に、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」とうたわれています。このため、労働者が労働契約により従事する作業内容が必ずしも提供できなくなった場合も、使用者は配置転換や適切な作業にあたらせ、離職しなくても就労を継続できるように配慮し、生活が困難となる状況に陥らないよう努力が求められています。
労働安全衛生法第13条第3項においても、産業医は労働者の健康を確保するため必要があると認めた場合には、事業者に病気の回復を促進するための休業や労働の軽減などの必要な勧告が出来ることになっています。
よって事業主は、労働者が業務に起因しない私傷病になっても、そのことを理由として容易に
a.解雇したり
b.契約更新をしなかったり
c .退職勧告をしたり
d.不当な配置転換や職位(役職)を変更する
などの措置をとらないように、努力しなければなりません。
病気になっても労働者が安心して治療に専念でき、病気の回復と職場復帰による継続的な就労が可能となり、事業の生産性の向上を目指すことが治療と職業生活の両立支援の主旨であることが社会一般によく理解されることを願っています。