所長のメッセージ
: 令和元年9月によせて
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
「働き方改革」の目指すものの一つに、働く者の置かれた個々の事情に応じ「多様な働き方」を選択できる社会(労働環境)を実現することにより、成長(経済発展)と分配(労働対価)の好循環を構築し、働く人一人ひとりで良い将来の展望をもてるようにするとされています。
しかし、「多様な働き方」を企業で採用する場合に、目指す目的とは異なった対応があることに注視しておく必要があります。
従来の労働者は、家庭は休息の場として、会社で労働することに専念することが当たり前のように考えて労働を提供してきましたが、家庭内で仕事をしていた者、いわゆる家事をしていた者が家庭外で労働を提供する労働者となり、会社が家事、育児、介護などの私的(?)な事情を考慮して受け入れる体制を構築することを促進することとなりました。
このことは、労働者の個々の事情に配慮して労働環境をつくることになりますので、短時間の勤務や会社(職場)に通勤しなくても在宅で業務を遂行できる体制を整えることになります。
短時間労働を提供する、あるいは採用することは、いわゆる非正規雇用者として勤務する者が多くなることになります。
日本の今までの採用条件は、企業が採用した従業員は定年まで雇用する(定年制)という終身雇用制度であると一般的に信じられていました。この制度はいわゆる正規雇用といい①雇用期間の定めのない採用であり、②労働時間も8時間のフルタイム制であり、③従事する会社に直接雇用されるなどの3条件を満たしていました。
この伝統的雇用体制が崩れてゆき、多様な働き方を導入することにより、前述の条件を満たさない雇用期間(1~5年)が定められた有期雇用者、時間で区切られて働くパートタイム労働者、採用している会社(派遣元)でなく、その会社から他の会社(派遣先)に紹介されて働く派遣労働者など、一般的にいう非正規労働者が増加しています。
最近では、非正規労働者が全雇用者の少なくとも3分の1以上を占めるようになり、また女性雇用者は、半数以上が非正規雇用者となっている地域もあります。
このことは、企業側が求めている職種、技能、賃金、就業条件などと求職者側の個人の事情と一致しない場合が多く、たとえ採用されても短期間で離職してしまう雇用のミスマッチがおこっています。これは、労働移動が盛んになり入職率も離職率も増加しているように雇用統計に表れています。
その上、会社側も労働賃金などを低く抑えるため、正規よりも非正規雇用者を多く採用するようになり、賃金が低く抑えられる要因ともなっています。
このことにより、「働き方改革」で同一労働同一賃金の考え方が提案されていますが、主旨は非正規の賃金を上げることにあったのですが、非正規雇用の方の低賃金に正規労働者の賃金を合わせるなど影響を及ぼしています。
また、年功賃金制度にも影響を与えるなど、今までの労働条件に変化と課題を生じさせていますので、働き方改革の主旨が正しく運用されるように社会全体で努力していく必要があります。