所長のメッセージ
: 令和元年10月によせて
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
働き方改革関連法の改正項目の一つに「年次有給休暇(有休と略す)の確実な取得」があります。労基法第39条第1項では「雇い入れの日から起算して六ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、または分割した10労働日の有休を与えなければならない」とされています。
しかし、年次有休の取得状況を見ると労働者一人平均年次有休取得割合は50%を下回っています。
労働者が有休を取得するためらいがあります。その主な理由は「みんなに迷惑をかけるから」「後で多忙になるから」「職場の雰囲気で取得しづらいから」「上司がいい顔をしないから」「昇格や勤務査定に影響があるから」などがあげられ、おおむね想定されていたことであり、これらを考慮し、今回改正が行われました。
改正点は「10日以上の年次有給休暇が付与された労働者に対して、年5日については毎年時季を指定して与えなければならない」とされたことであり、より有休をとりやすくしたことと、残りの5日は今までどおり申請に応じて取得可能としたことです。
また、従来、労働者からの申し出によることが原則であったため、前述の理由などで申し出すら出来なかったが、今回の改正で5日間の有休取得が使用者にとって義務付けられたことは、従来とは異なる点であると理解してもらうことも必要です。
今までは、労働者が有休を申請した場合であっても、使用者には時季変更権があるので、会社の仕事が暇な時や会社の都合の良い時に有休を取るようにすすめ、労働者の有休希望日ではなく、別の日を指定して拒否することがままありました。
しかし、この度、労働者が有休を申請した場合、「使用者は時季変更権を行使して時季を変更するにあたっては「事業の正常な運営を妨げるという個別的、具体的、客観的な要件が存在しなければ拒否できない」と変わりました。
しかし、有休を労働者の申請どおりに認めていたのでは”会社がつぶれてしまう”とか、会社の都合を優先して必ずしも申請されたとおりに有休を与える必要がないと考えている頭のきりかえのできない使用者、人事担当者あるいは労働者のなかにも存在しています。
本改正の主旨は「使用者に対して、出来る限り労働者が指定した時季に休暇を取得できるように、日常から有休の申請があれば状況に応じて配慮できる対策を立てておく必要がある」ことを要請していると解すべきです。
たとえ、当日請求があっても直ちに拒否するのではなく事業ごとに時季変更権行使の条件を充足しているか否か判断する必要が生じるので、急な欠員があっても交代要員(技能労働者や資格労働者の欠員の場合などでは、まだ十分働くことのできる在宅退職労働者などに、急に欠損が生じた場合に支援をしてもらえる契約等を結んでおく) をおいておく配慮が必要です。
これにより労働者に、個人的あるいは家庭的理由が生じても安心して休暇が取れるようになり、今まで以上に労働者がワーク・エンゲージメント(仕事に誇り、やりがい、熱意、活力をもつこと)をもって労働を継続することが可能になると思います。