所長のメッセージ
: 令和2年5月によせて
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
新型コロナウイルス感染症の拡大に備えるため、改正特別措置法(新型コロナ特措法)に基づき緊急事態宣言が発出されました。感染が全国的かつ急速に蔓延し、生活や経済に大きな影響を与える恐れがあるので区域と期間を定めて宣言されるものです。通常は流行の予測が可能な感染性疾患であれば科学的根拠に基づいた宣言が出せるのですが、新型のため国民が理解できるように説明することができませんので、国民に不安と不信が広がります。感染症について、多くの人が理解することが重要です。
病気の流行とは、一般的に特定の集団(地域や学校などの施設及び会社など)で、比較的限定された期間内に、通常の頻度を超えて同一疾患が多発することをいいます。流行はその規模により大流行(一国のほぼ全域にわたる場合)、パンデミック(世界的大流行)、エンデミック(局地的に限局して長期間流行がつづく場合)と呼ばれます。新型コロナウイルス感染は世界的大流行としてWHOよりパンデミック宣言が出され、全世界で交通網を遮断するなどの対策がとられています。
感染症の流行を予測するためには、病原体の変異程度(コロナウイルスはRNAウイルスなので変異しやすい)、感染源密度の変化、感染機会や感受性者密度の変化など関連要因が分からないと科学的に解析できません。また、流行の終息を予測をするためには感染源をなくすことができるか、ワクチンなどを接種して感受性者を少なくできるか、発病しても持効薬があって治療できるかなど分かっていないと解析できませんが、新型ですのでどの条件も分っていません。
唯一の対策は集団免疫(ある集団に病原体が侵入した場合、集団の構成員の約70%に免疫ができることや、感染して自然に治癒することによって集団に抗体ができること)の獲得を期待することになります。
またワクチンや特効薬ができるまでオーバーシュート(感染爆発)をおこさないことや重症にならない対策をとることが重要です。
やっかいなのは、コロナウイルス感染症は軽症者が多いので無自覚が多く、感染しても発症までの期間(いわゆる潜伏期間)が一週間以上と長い為、感染症拡大を防止するためには3密と言われる密閉空間・密集場所・密接場面(近接の会話)を少しでも少なくすることが必要です。
コロナウイルスの感染を確定するためには、疑いのある者の口や鼻の粘液をとり、この検体を加熱・変性して増幅し、コロナウイルス遺伝子を確認することによって感染を決定します。増幅過程などに検査時間を要するため、多くの検体数の検査をするのが難しいのです。このため検査時間が比較的短い抗体(外界から人体内に侵入した病原体などの抗原に対して患者の体内で免疫性を獲得し、特異的に排除する生物活性を持ったたんぱく)の検査が行われています。しかし、新型なので抗体の特異度が低いため、陽性か陰性かの判定が不正確になりやすく、たとえ陽性でも症状を診て軽症かあるいは重症かを判定するなど慎重な対応が必要です。
事業場の従業員に陽性と判定された感染者が確認されると、患者本人はたとえ軽症であっても免疫のない他人に感染させることがあるので隔離されます。また、濃厚接触者にもPCR検査を受けてもらい感染の有無の確認をしてもらう必要があります。企業においては業務自粛、生産中止、工場閉鎖、休業などが必要となります。これに伴い労働者の解雇や企業の倒産などの社会的影響がでます。流行期にはみんなで3密を避ける行動が必要です。
このような状況にならないために従業員全員に感染症(とくにウイルス感染)についての知識と理解を深めておくため、産業医や保健師の健康講話などを聴き、日常の対処方法を身に付けておくことが必要です。たとえ感染のピークがすぎても患者発生は、なだらかに続きます。そして健常者も含めて、人の体内にウイルスは常在しますので気をゆるめることなくみんなでがんばって対応しましょう。