所長のメッセージ
: 令和2年6月によせて
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
WHOは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が地球的規模で流行することを予測し、全世界にコロナ対策(各国、各地域で交通を遮断するなどの対応)を講じるように呼び掛けています。
医学の研究分野の中には、病気の流行予測や流行状況を明らかにする研究分野(主に疫学研究分野)があります。
病気の流行とは、特定の集団や地域で比較的限定された期間内に通常予測される頻度を超えて同一疾患が多発することを言います。通常は、感染性疾患について「流行している」などと用いますが、最近では悪性新生物(がん)や心臓病などいわゆる生活習慣病がある地域内で多発している場合などにも使われます。
流行状況はその規模によって大流行(一般的に決まりもなく使われる)、汎流行(パンデミック)、地方病的流行(エンデミック)などに分けられて表現されます。ある疾患が流行しているか否かは平常時の発生状況が目安となりますが、新型感染症の流行は前例となる目安がありません。一般的には流行が始まってから認識され、その後に対策を計画するので遅れやすいのです。流行の対策を立案するためには、流行の予測がある程度分かっていることが必要です。急性感染症の場合には、一般的に考えられている流行モデルがあります。それは発症した患者の急激な増加をもって流行が始まり、徐々にあるいは急激に増加し、やがてピークを向えます。それが過ぎると徐々に減少傾向となり、発症している患者が治癒することによって終息を向えます。これらの経過を明らかにするためには種々の流行関連要因、すなわち初期発生患者数、感受性保有者数(免疫のない人)、減染期間(潜伏期間も含む)、感染経路、有効接触者数(発症2~3日前から判明すると良いがなかなか困難なことが多い)などを変数として用い、解析する事で明らかにすることができます。
また流行状況を把握するためには、病原体の変異程度、感染源密度の変化、感染機会の状態、そして感受性者密度の変化などを迅速かつ出来るだけ正確に調査などを行って明らかにすることが必要です。
そして終息を予測するためには、感受性者を減らすためのワクチンの開発、ワクチン接種者数または率、患者隔離状況、治療薬投与状況などの要因が関係します。
その他に、感染症には一般的に流行の周期があるといわれます。とくに呼吸器感染症(とくにインフルエンザなど)は気温や湿度などの自然気象要因の変化が流行に影響し、冬期に多発し夏期には流行しなくなるといわれます。しかしコロナウイルスは構造に特徴があり、ウイルスがエンベロープという膜につつまれているため、気候変動などの環境変化にも影響されず、夏期にも生存し流行を続けるのではないかといわれています。
また、地球的規模の流行(パンデミック)ですので、北半球が夏期になっても南半球は冬期になります。長期(永年)変動、不規則変動を繰り返しながら流行が長期間続き、感染源として地球的規模で常在すると予測されているので終息宣言は出しにくいと思います。
流行を再発させないため、各企業においては、たとえ流行が治まったように見えても、特に海外との交流の多い企業においては、海外派遣労働者の健診を充実しておくこと、患者や死者の多発している国からの外国人労働者の日常の健康管理を積極的に実行しておくことが重要と思います。