所長のメッセージ
: 令和2年7月によせて
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
新型コロナウイルス感染症は、パンデミック(世界規模の流行)として、今なお世界の各国で流行が拡大しています。日本においても流行の第2波が来ると予測され、みなさんが心配しています。各企業においても、営業や生産活動において再度自粛が求められたり、流通やサプライチェーンが壊れることにより生産中止に追い込まれるなどの不安とストレスが労働者の心身に影響を与えると予測されます。
本来、労働衛生上の感染症対策は、①業務に起因して罹患し、業務により増悪する感染症、②感染労働者等が業務を行うことによって、他の労働者(第3者を含む)に感染するおそれのある感染症、③労働者が感染することによって業務に支障がでるような感染症、④ ①~③に該当しないが、職場内で偏見や差別が生ずるような感染症(AIDSなど)などを対象に行っています。
新型コロナウイルス感染症は平成11年に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法と略す)」で、指定感染症(政令で1年間に限定して指定される感染症)に分類されました。そのため、感染者(PCR検査陽性者など)又は感染の疑いのある者は、人権が尊重され、良質かつ適切な医療が提供されるなどの対応がとられることになりました。そして患者の意思に基づきますが、就業制限や入院することが勧告され、原則入院等の医療費は主に医療保険が適用され、残額は公費で負担されることになります。
新型コロナウイルスは発病前から人から人へ感染(潜伏期感染)します。各事業場において、労働者同士の感染予防のため、患者との濃厚接触者にならないように工場閉鎖や休業することで労働者およびその関係者を保護する対応をすることになります。
新型コロナウイルスの感染様式は、発病2~3日前でも感染力が高いことや健康保菌者(キャリアー)が多く、予防対策の方法がとりにくいことです。よって、早めに、関係したと思われる者(濃厚接触者と接触した人で発病していない者)にPCR検査や抗体検査を行うことで、感染の有無を確認したり、陽性者に感染を拡大しないように注意を喚起し、感染を封じ込めることにより感染拡大を防ぐことを目指しています。
今回は緊急事態宣言を出し、事業場にも生産活動などの自粛を要請し、一定程度の流行を低く抑えています。現在は社会経済などの影響が大きいので宣言が解除されましたが、コロナウイルスは今まで流行している季節性インフルエンザなどよりも感染力や病原性が強く、健康陽性者(PCR検査陽性者で、発病していなくても人に感染させる可能性のある者)が多いので、気がつかないうちに周囲に感染させることが予測されます。
感染症予防対策を野球に例えると、打者はがんばって打撃練習を行っても、結果として三振をすることもあり、仕方ないと受け止めることがあります。新型コロナウイルス対策では、たとえ第2波がこなくても良かったと考え、無駄な対策をしたと考えないことが大切です。たとえ三振してもよいから産業保健の立場からも予防対策に時間と経費、および知恵を使いましょう。