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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和2年9月によせて

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

厚生労働省から健康寿命を延ばすことを目指してスローガンに“+けんしん”を掲げたポスターが作成され、医療機関や官公庁などの施設に掲示されています。そのサブタイトルが「定期的な“健診”と“検診”をプラス」となっています。“健診”と“検診”がスローガンなどに使い分けて表示されることはあまり見かけません。費用負担などについても内容や条件によって異なることがあります。今回は少しその“ちがい”について説明します。

「健診」というのは健康診断あるいは健康診査のことで産業保健分野では労働安全衛生法に規定され、労働者の健康を確保するための必要な基本的事項の一つです。一般的に健康診断は住民検診として国民を対象に行われていますが、とくに事業場(職域)で行われる「健診」には2つの種類があります。

まず一つは、全従業員(常勤・非常勤者にかかわらず)を対象として「一般健康診断」として行われるものです。これは労働者の健康状態を把握するため定期健診項目(問診、検尿一般、血液一般、血圧測定、心電図検査、胸部レントゲン検査など)について、一般的には年に1回実施するものです。この結果によって健康状態を確認し、異常所見があれば精密検査の要否、療養の必要性の有無を判断し、産業医の保健指導を行うとともに労働者の適正配置、就業の継続の可否、就業制限の必要性や程度を判定し、就業上の種々の条件を検討する資料にします。

二つ目は有害業務に従事する労働者を対象とした「特殊健康診断」といわれるものです。各種の有害業務について細かな健診項目が決定されており、また対象作業によって実施頻度や細かな診察方法が決められています(労災認定の参考にされます)。騒音、有機溶剤、振動、放射線などの有害要因への曝露の有無や程度の把握(健康への影響)、その結果によって精密検査の必要性や作業内容への改善、適正配置、就業制限などの判断に資することを目的とした健診です。

一方「検診」とは、検査する対象の臓器とがん、梗塞、代謝異常などの病変内容を決定して、その目的に適合した各種検査を主体に行われる検査健診です。たとえば肺結核や肺がんの検査をする胸部レントゲン撮影およびヘリカルCT検査、胃がんを検査する胃バリウム透視撮影、胃内視鏡検査(胃カメラ)、子宮がんの検査をする子宮頸部細胞診(必要な場合は内診)、乳がんを検査する乳房触診とマンモグラフィー検査、大腸がんを検査する大腸ファイバースコープと便潜血検査、肝臓、胆のう、腎臓の異常を検査する腹部超音波検査などがあります。

職域で行われる「健診」は労働安全衛生法の規定上、労働者の健康管理を実施するため、事業主に義務付けられています。よって特殊健康診断はもちろんですが、一般健康診断の費用についても事業主が負担すべきものです。しかし、定期に行われる健診の中でも、法定項目以外の健診項目については必ずしも事業主が負担することになっていません。よって労使間でよく協議して費用負担について定めておくことが必要です。

検診の費用負担については健診のオプションとして追加して検査されるものが多いので基本的には自己負担ですが、事業場で行われた場合には健康保険組合が負担したり、事業主が補助する場合があります。

健康経営の実践のためにもそれぞれの理解と努力によって「健診」と「検診」がスムーズに行われることが大切です。