所長のメッセージ
: 令和2年10月によせて
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
高齢化社会の進行に伴い、生産年齢人口が減少し、それを補うために働く高齢者が増加しています。熟練高齢者の経験や知識は、とくに技術伝承業務分野においては必要であり、プラスに働く場合が多いと思います。
しかし、人間は加齢に伴い、さまざまな人体臓器の機能に変化をおこし、予備的能力が低下します。そのため外的なストレスに対して脆弱性が亢進し、ストレスに対して十分な回復力を有する健康状態を維持することが困難になります(フレイル状態という)。また、加齢に伴う骨格筋量の低下で、歩行速度や握力等の身体機能が低下します(サルコペニア状態という)。労働災害のうち60歳以上の労働者の占める割合が多くなっていることから、その防止のためのフレイルやサルコペニアの状態に労働者が陥らないようにする必要があります。
産業保健対策においては、現役時代(15歳から64歳)に健康寿命(日常生活において自分の身のまわりのことができる状態)と職業生涯を延ばすための健康づくり対策の実践が重要です。
令和2年3月に厚生労働省は「高年齢労働者の安全と健康確保のためにガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」を公表しました。これは、高年齢労働者が安心して安全に働ける職場の環境づくりや労働災害の予防的観点から、高年齢労働者の健康づくりを推進し、高年齢労働者を使用する又は使用しようとする事業者及び労働者自身が取り組む事項を示し、高年齢労働者の労働災害を防止することを目指しています。
このため、現行の職場健康診断などに追加して健康づくりを推進するための体力テスト(握力、開眼片足立ち、上体起こし、体前屈、10m障害物歩行、下肢筋力測定などの検査)の実施を奨励しています。そのうち、握力検査(筋力検査)と開眼片足立ち時間(平衡機能検査)は簡便で、かつ安全なので取り入れやすいです。
筋力は日常生活において「身体をささえる」、「移動する」、「物を持ちあげる」などの動作に必要な力です。下肢の筋力が低下すると転倒や骨折のリスクが高くなり、腰痛、肩こりなどが発症しやすくなります。また、開眼片足立ち時間は平衡機能を検査するもので、これは作業中にバランスを失い高所からの墜落や転落を予防するために、作業配置を行う際にその検査結果を活用できるので検査の実施をすることをお勧めします(トレーニングで改善します)。
また、もう一つの検査は精神・心理フレイルチェックです。加齢による健忘症は誰にでも発生します。正常よりも少し認知機能が低下(軽度認知障害・MCIという)するので、MCIスクリーニング検査などであたまの健康チェックを行うことをお勧めします。MCIは認知症ではなく可逆性疾病なので、十分トレーニングで改善できるので低下を予防するためにもお勧めします。
高年齢労働者が安心して安全に就労できるように健康状態を把握して、それにあわせて適正配置などを考慮されることが重要です。