所長のメッセージ
: 令和3年3月によせて
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
◇新型コロナウイルス感染症の予防と感染拡大のために新しく開発されたワクチンの接種が、令和3年2月から政府の対策として国民に実施されています。
◇まず海外で開発されたワクチンですので、日本において接種予定のすべてのワクチンの有効性、安全性などが認可されることが必要です。その上で国民に接種が開始されると考えています。接種の方策の一つとして、事業場で産業医等から労働者へ予防接種をすることが話題となっています。急に産業保健分野の業務と関連するような雰囲気になったので種々の課題について述べてみます。
◇従来より事業場において、主に労働者の感染を防止するために予防接種が行われています。例えば、季節性インフルエンザの予防のためであったり、個人防衛を目指して医療従事者などに肝炎ワクチン接種を行っています。(医療従事者が肝炎に罹患した場合は、就労に起因されると認定されると労災認定となります。)
◇現行の予防接種は、被接種者に対して「受けるように努めなければならない」という努力義務となっています。そして国および地方公共団体は国民に対し、予防接種について対象疾病の特性、接種の必要性および有効性、その他について啓発する必要があるとされています。今回の新型コロナウイルスのワクチンについては、海外で開発され、今までのワクチンのように生ワクチンや不活化ワクチンとは製造過程が異なり、ウイルス遺伝子の一部を増幅してつくった蛋白を活用したワクチンですので、有効性(抗体産生能とその持続性はどれだけあるかなど)や長期、短期の副反応の程度(身体影響および発がん性の有無)など未知のことが多く、国はこれらのことを科学的に明らかにし、説明することが必要です。
◇事業場のBCP(事業場で労働者自身の感染予防と同僚への感染拡大を予防して事業の継続を可能にすること)のためにも、事業場単位の接種は必要なことであります。また、このことにより事業場内のみでなく、社会全体の拡大防止につながると思います。しかし、事業場での予防接種が実施されるのであれば、産業保健で取り扱う安全配慮義務の一環として、労使でワクチン接種について意義などを共有することが必要であります。健康でかつすでに抗体を保有しているかもしれない労働者に接種することになりますので、ことさらに安全性については留意することが必要ですし、副反応が発生した場合の責任のあり方等については明確にしておくことが肝要です。