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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和3年6月によせて 

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

本年4月より新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止を目指して、医療従事者などに続き高齢者を対象にワクチン接種が始まりました。次いで、65歳以下の方を対象に接種が実施されるようになると思います。今までは認められていませんでしたが、事業場においても産業医による接種も検討されているようです。そのため、事業主をはじめ衛生担当者は、新しいワクチンの正しい知識を習得しておくことが必要と思います。

予防接種法においてワクチン接種の目指すものは、国民の多く(60~70%)が抗体を保有し、病気の流行を抑制しようとするものであり、かつ国民一人一人が病気に感染しにくい体質を獲得することにあります。法による定期予防接種などは、国民に理解と協力を求めて予防接種を受けるように努める(努力義務)ことをすすめています。今回実施されるコロナウイルス感染予防のための予防接種も義務ではありません。労働者が作業環境や作業内容に応じて自分の意志でメリットやデメリットを考慮して接種を受けるかどうかを判断し、行動することが肝要です。そのため事業場においても、労働者にワクチン接種の必要性やどんなものであるかを学習してもらう機会をつくることが必要です。

今までのワクチンは、生弱毒性微生物を体内で増殖させ人体の免疫系を刺激して抗体をつくる生ワクチン(BCG、風疹、水痘など)と、ホルマリンなどを添加し微生物の免疫抗原性をそこなわず無毒化した不活化ワクチン(ポリオ、百日咳、日本脳炎、インフルエンザ,B型肝炎、肺炎球菌など)の2種類を活用していました。

このたび新しく開発されたワクチンの仕組みには、人工的につくった新型コロナウイルスのスパイク蛋白質全長をコードするmRNAといわれる遺伝物質を脂質の膜に包んだワクチン、あるいは比較的病原性の弱いウイルスをベクター(運び屋)として利用したウイルスベクターワクチンの2種類があります。接種されたワクチンは、細胞に取り込まれ新型コロナウイルス蛋白質が産生されます。このウイルス蛋白質は免疫システムによって異物と認識され、特異的な中和抗体が産生されます。それによって新型コロナウイルスに感染しても、ウイルス量や抗体産生能力にもよりますが、たとえ発症しても重症化しないといわれています。海外で開発された新型のワクチンですので、抗体の産生能力や効果の持続期間も日本においては明確ではありません。またデメリットとして副反応(重いアレルギー反応、発熱など)がおこることもありますので、リスクとして十分に了解しておく必要があります。

感染の拡大を阻止するには、感染者(無症状の抗体検査陽性者を含む)を早めに発見するため、日常的に抗体検査を受けることのできる体制をつくっておくことが必要です。しかし、公衆衛生対策を実践する機関で社会共通資本である保健所や衛生研究所が行政改革などによって削減されているのが現状です。今後国は予防医療体制を市場にまかせるのではなく、公に体制の整備をしておく必要があります。

たとえワクチン接種したからといって感染しないわけではありません。自己防衛は依然として必要であり、3密(密接、密集、密閉)を避け適切にマスクをして作業従事することを忘れないで下さい。