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所長のメッセージ

所長のメッセージ  : 令和3年8月によせて 

投稿日時:

鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

年金受給開始年齢が65歳に延びたことなどもあり、高年齢労働者(60歳以上の労働者)の就労が増加しています。このため、高齢労働者が安心して安全に働ける職場環境を実現することを目指して、エイジフレンドリーガイドライン(高齢者の加齢による身体的・精神的特性を考慮した安全と健康確保のための取り組み指針)が策定されています。

高齢労働者の就労の現状は、60歳以上の雇用者数が過去10年間で1.5倍に増加し、特に商業、保健衛生業(介護支援など)、サービス業などの第三次産業と体力(筋力)を必要とする労働および夜勤労働(高齢者は生理的に適応が難しい)などの分野で増加しています。高齢者の身体機能は近年向上しているとはいえ、壮年者に比べれば聴力、視力、平衡機能、筋力などの低下は否めないため、転倒等に起因する労働災害の発生が多くなっています。

このため、予防医学的には今までのように生活習慣病にならないことや身体活動能力の低下を予防することだけではなく、いわゆる健康増進といわれるごとく、通常の生活機能の維持も対策に入れなくては手遅れになってきました。

今までは身体的機能低下の目安として、①体重減少 ②筋力低下 ③疲労感 ④歩行速度低下 ⑤低活動性(動作が遅くなる)などの5項目をチェックし、3つ以上該当すると機能低下があると基準に定めてきました。このような状態を「フレイル」といい健康な状態と要介護状態の中間的状態であるとして予防医学的に対処してきました。このように身体的フレイルはよく理解されていますが今後は精神心理的フレイルにも注目する必要があります。

メンタルヘルス対策では「うつ病」がとりあげられましたが、これからはプレメンタルヘルス対策としての「うつ傾向」に加え、労働者の高齢化にともなう「認知機能」もチェックして、就労に影響を及ぼす前におこる加齢による精神反応について労働者に自覚させることが必要です。今日話題にあがるのが、認知機能が少し低下した状態である「軽度認知障害(MCIエム・シー・アイ)」であり、この理解が職場全体に普及することが必要です。

MCIは、認知症の診断基準を満たさず、日常生活活動は通常に保たれながらも自覚を伴う加齢以上の認知機能低下がある状態で、一般住民に6~10%はみられており、高齢になると少なからず存在しているといわれています。これは本人に自覚がなく、周辺の関係者も分かりにくいため、就業中によくトラブルをおこす存在となっています。

すべての高齢労働者に可能性がありますので、MCIスクリーニング検査を職場で取り入れ、労働者自身がまず認識し、就業中に不都合が起こらない対策を行うこともエイジフレンドリーガイドラインをスムーズに実践することの「助け」となるでしょう。