所長のメッセージ
: 令和3年11月によせて
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
今回のコロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)を終息させるため、ロックダウンや入国制限など種々の対策が世界の各国で実施されました。その対策の一つに予防接種が先進国を中心に国家的事業として行われました。今までのパンデミックで、このような地球的規模での感染症対策は行われたことはありません。日本においても緊急事態宣言を発するとともに、対策の一つに予防接種(外国産のコロナワクチン接種)が実施されました。
産業保健の事業の一つに職場での感染症対策があります。職場の感染症対策の内容に、職場で予防接種を労働者に実施する場合がありますが、法令上の規定はありません。事業場内で特定の感染症がまん延するおそれがある場合、特に業務に関連して感染症にかかるおそれがある場合は予防接種を考える必要があります。この際の予防接種は事業主の責任において実施されるものであり、接種を実施する産業医又は他の医療職は事業主との契約に基づいて接種を行うことになりますが、接種による副作用や禁忌について十分な問診、健康状態の確認をした上で実施するものです。
事業場での予防接種は、個体(労働者)が獲得した免疫によって職場内での集団発生を抑制し、事業の継続性(BCP)を確保することが目標になります。感染症の流行期間など流行状況にもよりますが、集団発生を抑制するためには、ワクチン接種による免疫効果が少なくとも半年以上継続することが必要です。今回のmRNAワクチンは、ウイルス遺伝子のうち免疫原性(抗原)を意味する遺伝子の塩基配列を基にヒトの細胞が利用できる形にしたものです。それをヒトの筋肉細胞に接種することで、免疫細胞が認識(錯覚)して抗体をつくることにより獲得免疫を成立させるようにしたものです。開発段階で免疫効果の追跡期間が3カ月から6カ月間といわれていますので長期の効果は未確定です。そのため、接種後、接種者の抗体価を測定し、抗体価が低下していれば追加してワクチンを接種しなければ感染の抑制にはなりません。集団免疫体制がつくりにくいので感染予防のためには、ワクチン接種だけに頼ることなく、今までのように感染予防としてマスクの着用、ウイルスに負けない体力の維持、3密を避けるなど種々の環境要因を維持することが大切です。事業場内での感染症予防のための予防接種の実施については、安全衛生委員会の適切な検討により対応されるのが適当と思います。