鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
新入社員の皆様も4月以来、順調に職場の雰囲気や仕事に慣れてこられたことと思います。
2019年4月1日より「働き方改革関連法」が施行されました。
改革の内容には各種ありますが、その中で注目されているのが「時間外労働の上限規制」が導入されたことです。(中小企業は2020年4月1日から施行)これは1947年に制定された「労働基準法」によって決められた時間外労働に関する初めての改革です。
産業革命時代において、労働者に過重労働を嫁したため労働者が身体的・精神的に疲弊することによって生産性が低下するようになり、これを回避するために、適切な労働時間(当時、一日16時間労働でした)を検討する必要に迫られました。過重労働により健康障害の徴候が表れ、このまま労働を継続すると主に循環器疾患(くも膜下出血、脳出血、脳梗塞、急性心不全、急性心筋梗塞など)を発症し、発病から死亡までの時間が2時間以内の”いわゆる突然死”が多発するようになりました。そこで1日の労働時間は8時間が適切であると考えられ、労働基準法にも採用されました。
さらに最近になって、時間外労働(8時間を超えて働く)が月45時間を超え、月に80時間や100時間を超えると「過労死」が発生すると言われるようになりました。過労死の概念は身体的(又は医学的)条件と社会科学的要因が重なって起こると言われています。過去には、生活習慣病の素因があったり、治療中に長時間残業による突然死が発症しても、身体的理由とされて業務上で発生した事例と認められませんでした。
今日では過労死認定には、認定基準(発症直前もしくは24時間以内の災害的な出来事また、発生1週間以内の過重負荷の継続など)と併せて身体的条件も考慮し判定され認められるようになりました。
また過重な量的労働負担の急増、仕事の責任の増大、ノルマの急増や人間関係の精神的負担が重なり、それを起因とした過労死事例が報告されるようになってきました。
この度の改革で一日の労働は8時間を基準とし、これを超える残業時間の上限を規制しました。残業時間は原則、月45時間、年間360時間(1日当たり2時間程度の残業)を上限としています。臨時的に特別な事情がある場合に労使の合意があれば、年間720時間以内、複数月平均80時間、月100時間以内(1日当たり4時間程度)の残業が可能となりました。
長時間労働に関する問題は、仕事場の人間関係や昇進・昇格などの情状的ストレスによって起こるうつ病や自殺などの発生関連要因となることなど、幅広く考えられようになっています。
御自身の労働時間を適切に管理し、労働時間以外の生活時間の使い方、過ごし方を工夫しながら快適な職業生活を送って下さい。
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
新元号「令和(2019年5月1日から)」に変わる平成31年4月に新社会人の皆様は入社され、健全に勤労されていることとお祝い申し上げます。
新しい職場で仕事への期待に夢膨らませてご活躍のことと思いますが新しい仕事に携わるには、さまざまな能力が必要です。早く仕事に慣れスムーズに生産活動に従事されることを期待しています。
産業保健に携わる我々の立場といたしましては、上手に仕事に適応され、身体的にはもちろん精神的にも快適に対応されることを望みますが、全てが当初からうまくいくとは限りません。
種々の困難な場面に直面することもあります。この時には、まず各職場で上司や同僚のサポートを得たり、相談することにより乗り越えることが必要です。しかし、職場には乗り越えられない社会状況や仕事場の環境、あるいは古くからある労働環境や仕組がありますので、働き易くすることを目指して平成30年に「働き方改革を推進するための関連法律(労働基準法、労働安全衛生法、労働時間等設定改善法等)」が改正、整備され、平成31年4月1日より施行されました。これにより労働者の就業環境の改善が期待されています。
鳥取産業保健総合支援センターでは、あらゆる労働者の健康管理に関係する事業を行ったり、必要な健康教育の機会などを提供するとともに、事業主や産業医など産業保健に従事する者の業務の支援を行っています。
新しい労働者のみなさんには耳慣れないと思いますが「産業保健」ということばをこの所長のページでよく使います。
産業保健というのは医療従事者が活動している一つの分野です。
内容は全ての働く人の健康を守り、安心して働ける環境を構築し、併せて企業体の健康経営の向上を図ることを目指した実践的活動です。
働き方改革関連法の内容には、時間外労働の上限規制などが新たに制定されましたが、そのなかで一般的には注目されにくい改革として、産業医・産業保健の強化という項目があります。その一つは、産業医の立場について独立性・中立性の強化がはかられ、公正な立場で判断、活動できるようになったことです。また、事業主は産業医の業務内容・労働相談の申出方法等を、常時各作業場の見やすい場所に掲示する等により、労働者に周知されなければならなくなりました。
そして産業医は労働者の健康管理等を行うのに必要な知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならないとされました。
産業医が健康相談に対応することが制度化されましたので、労働者は身体的・精神的な不調があれば早めに産業医に相談し、不具合なことが進行しないように対処し、その上で、貴重な労働力を長年発揮することで、生産性の向上に寄与されることを期待します。
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
季節性インフルエンザが流行して感染の拡大が心配されています。今年の冬は暖かいこともあり、3月には流行が収まることが予測されていますが季節の変わり目、気温の変化、花冷え等があり、少なくとも3月いっぱいは警戒を怠らないようにすることが大切です。そのため言い古されたことですが、蔓延予防として手洗い、咳エチケットとしてマスクの着用を皆が心がける必要があります。
その上であらかじめワクチン接種による感染・発症予防や感染しても軽症で経過させる努力も必要です。
今回の流行は主にA香港型のインフルエンザによるものと言われています。A型インフルエンザウィルスは抗原変異がワクチン株を培養する工程で生じやすく、流行しているウィルスと必ずしも接種ワクチンが完全に一致しにくいため、接種による予防効果が充分に期待出来ないと考えられています。
事業者(会社)は、感染して発症した労働者と高リスク者である妊婦や高齢労働者などの感染弱者との接触の機会を出来るだけ少なくすることが求められます。
まず職場では感染防止策について労働者へ正しい教育や普及啓発を行う必要があり、欠勤した労働者の感染の可能性を予知しておくことも大切です。
また、今回はワクチン接種による予防効果が薄いことも考えられますので、感染機会の多い医療従事者には、ワクチン接種のうえに抗インフルエンザ薬の予防投薬を進めます。
一般的な労働者については、発熱などで体調が悪くなった場合は仕事を休むのが原則ですので、感拡散予防のために休業出来る職場環境を整えておくことも必要です。
ところで、インフルエンザに感染して休んだ場合の休業手当の支払が問題となる場合があります。
インフルエンザを発症した労働者が、身体状況から仕事を遂行することが困難であると考え、また医師の判断指導などにより、自主的に休業した場合は「使用者の責に帰すべき理由」に該当しませんので、普通に欠勤した場合と同様に賃金を控除、又は賃金を支払わないことで対応が可能です。
しかし、インフルエンザの感染が確認された労働者が有給休暇を取得せず、また欠勤もしないで「働ける」と考え出勤してきた場合に、事業者(会社)は他の従業員などに感染が拡大する危険を回避するため休業してほしいと考えます。一般的にはインフルエンザを発症した場合は熱が下がり2日間、出来れば約1週間は休ませることが感染拡大防止には必要と言われています。
出勤する意思のある労働者を事業者(会社)の判断で休業させる場合には、インフルエンザは労働安全衛生法で定める「就業禁止」の対象とする疾病に該当しませんので、休業手当の支払いが必要となります。
休業手当を支払う場合でも、病気や症状によって危険負担が異なりますので、労働者が安心して休業できるよう、あらかじめ「病気休業の場合の手当」の割合(60%~100%など)等を検討しておくことが雇用管理の面からも必要ではないでしょうか。
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
人口減少に伴う労働人口の減少、高齢者の再雇用、女性の職場への進出促進など一億総活躍社会の実現に向けて政府主導の働き方改革関連法案が昨年可決成立し、平成31年4月1日から順次施行されることになっています。
これにより時間外労働の上限が制定されるほか、特に産業保健の強化や産業医の活動を支援する規則等が盛り込まれて、産業保健の充実とその実施の期待が高まるとともに、産業医の責任も大きくなりました。
振り返ってみると第二次世界大戦後の日本は敗戦後、復興を進めるとともに、それに続く高度経済成長が日本社会を今日のように世界的位置にのし上げてきたのです。
この発展を支えてきたのは島国であったという利点とともに、統一した国家体制がとられたことと自由と平等の社会的風潮により格差の少ない終身雇用制度を維持発展させ国民の安定した生活があったからです。また定年までの無期雇用、基本として1日8時間労働のフルタイム勤務、そして安定した企業に労働者が直接雇用されることにより生活が保障されていたことも一因です。これを前提に労働者は会社の為に一生懸命働き、ややもすると早朝・深夜の時間外や休日に勤務することも美徳とされ、労働することの成果はあまり問われないことで頑張って働いてきました。
近年、情報化社会が到来し、特に海外の情報が入手しやすくなり、国内での日常生活の価値観が様々な影響を受けております。流通体制の進歩により海外から安価な商品が輸入販売されることによる価格の不安定化、ネット通販などの生産者と消費者が直接つながる事による商品の購入体制の変化や国境を越えた取引など、グローバル化が進むことで日本的安定感と価値観の判断基準の変化を伴い、やがて国内の労働者の勤務体制にも変化をもたらしてきました。
無期雇用体制の正社員は、長時間の残業や長期の単身赴任生活などに加え、過酷な条件下で働かせられることになっていた傾向もありましたが、非正規労働者が増加することにより、職種・勤務地・労働時間が限定された勤務形態があらわれ、賃金はもとより職務・労働時間等の勤務態様の正規・非正規労働者間の矛盾が表面化してきました。
また同時に非正規労働者に対して正規労働者と同じ勤務内容や権限を課することも問題となってきています。
その他いろいろ表れてきた労働問題に対する課題を法改正によって解決していくことと、一人一人の労働者が健康で人間らしく継続して働ける労働環境を構築する産業保健の活動が重要であることに気づかされる今日です。
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
平成31年(2019年)明けましてお目出度うございます。
昨年(平成30年)に「働き方改革」を推進するための関係法律の整備に関する法律が成立しました。
この整備法の内容には、フレックスタイム制の運用の見直し、時間外労働の上限規制、年次有給休暇の確実な取得の仕組みの導入、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率を5割以上にしなければならない等がありますが、その他に、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法に「勤務間インターバルの設定」が努力義務として示されました。勤務間インターバル(終業時刻と始業時刻の間に一定時間の休息を確保すること)を設定することにより、労働者が十分な睡眠時間や生活時間を確保し、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)を保ちながら健康で働き続けることが可能となることを目指しています。
労働時間については、軽作業、重量作業などによる身体的負荷の異なる作業もありますが、就労時間を原則「1日8時間」とし、それぞれの仕事の状況によって就労時間を変更することにより、作業効率も向上し、健全に労働を遂行できる制度が決められています。また、労働時間が6時間を超える場合は、少なくとも45分間の休憩を、労働時間が8時間を超える場合には、少なくとも1時間の休憩を与えなければならないとされており、作業途中で体力や心身の快復を可能にするように決められています。
休息時間としての勤務間インターバルは9~11時間が提案され、この間で心身の疲労などが回復することを期待し、労働者が就労時間外に仕事から離れて人間らしい日常生活を送れることが重要であると考えられているのです。
この制度を確立することは、健康な生活を送る為にも大変重要なことでもありますが、しかし、休息内容そのものを決めることは困難な為、インターバル時間(休息時間)というように時間のモーメントで制度化するしかありません。
もとより、休息のとり方は労働者によりそれぞれに異なります。
十分に身体をやすめ、睡眠時間をとることが目的なのですが、現実的にはインターバル時間内であっても、家事労働、育児時間、家庭生活、娯楽、スポーツ等のほか日常生活の中には様々な事柄が混在しており、労働疲労の回復だけに使えない場合もあります。
「働き方改革」を考えるとき、労働時間に関する様々な施策に着目しがちですが、労働者の生きる在り方のパラダイムシフト(適切な生き方)もある程度考えに入れた労働対策がとられないと、人生を働くことのみでなく、労働以外の時間も楽しめる充実した生き方が可能にならないと思いますがいかがでしょうか。
今年もさらに産業保健改革が進められることを期待します。