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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

今年の産業保健対策として「治療と職業生活の両立支援」の取組の普及や職場の体制整備を実践することが注目されています。
今までは、病気になると仕事を控えるように保健指導されてきました。最近の各種の事業場を対象とした調査報告によると、疾病を理由に1ヶ月以上連続して休職した人の罹患している病気は、精神疾患、がん、脳血管疾患等が多いとされています。以前より、高血圧症、糖尿病、慢性の腎臓病、肝臓病、及び腰痛などの筋骨格系疾患などに罹患している労働者は、医療機関に通院・治療しながら業務に影響させないようにして仕事に従事していました。

現在は、医学、医療の診断技術や治療技術・方法の進歩に伴い「不治で重篤な疾患(がんや難病など)」は、完治はしないが「治療をしながら長く付きあう病気」となっている例が多くなり、入院ではなく医療機関に通院しながら仕事を続けることが可能となっています。その中でもまず、2060歳代の労働者が多く診断される「がん」について、職場環境を整えて対応する取組が進められています。
これは、労働人口の減少対策にもなるし、労働者の仕事を奪うことによる生きがいをなくしたり、収入減による生活不安などを取り除くメリットも考えてのことと思います。たとえ「がん」に罹患しても適切な治療を受け、管理を行えば、労働可能な体力と精神力を維持しつつ、勤労者として長期間勤務が可能な時代を実現しようとしているわけです。

このための前提として、がん等の病気は発見の時期が遅れ重症化してからでは、就業可能な治療を受けたり、体力を維持することが困難となる場合もありますので、早期の発見が必要です。
まず、がんの発生要因となる作業環境を整備し、要因をなくす第一次予防が最も重要であり、次に早期発見、早期治療とする第二次予防が重要となります。
このために定期的にがん検診(健診)を実施し、受診することを勧めていますが、がん検診には「百害あって一利なし」とある医師が週刊誌に報告し話題となりました。
この医師が、がん検診を否定している理由はいくつかありますが、その中の一つに早期に発見されたがんは「がんもどき」であると、がん検診で発見されるがんが早期であることに疑問を呈されています。検診発見がんが早期な状態である理由を述べてみます。一般に健康診断(検診)はスクリーニングと言われ、①異常のない健常者、②疾病前状態の罹患が疑わしい者、③疾病罹患者(早期であることが望ましい)をふるい分ける方法であります。
現在の医療の進歩は、がんの診断技術に目覚ましい進歩をもたらし検査手技も進歩し、苦痛を少なくして実施でき、健康状態(無自覚な時期)で前がん状態などを含め、早期(初期)の状態で(疑わしいがんも含め)ふるい分け可能となりました。
しかし、やむを得ませんが、②のがんが疑わしいと思われた人は、③の予見も考慮する必要があるため検診後定期的に医療管理が必要となるのです。ですが、この状態は「がんである」との確定診断ではありません。
このため自覚してから発見されるがんよりも時期が早く発見されるので、当然、「がん検診発見がん」は早期のがんが多くなり、結果的に治療開始もより早くなり、治癒可能であったり、患者の生存期間も長くなるのです。

また、スクリーニングで発見されたがんは年一回など定期的な期間を置いて実施されるいわゆる集団検診(あるいはドック健診)等の機会に発見されるので、経過の長いがんが発見される傾向があります。よって発生後23ケ月に急性増悪し医療機関で受診し発見されるがんよりも生命予後(治療後の生存期間)が良いがんを治療することになります。

がんはその発生原因や進行速度が不明なことが多いので、検診を受けてご自分の健康管理につなげてください。がん検診発見がんには以上のような特性や利点がありますので、積極的に検診を受診されることを勧めます。

がんになっても治療と職業生活を両立させるためには早期に発見され、良好な予後であることが必須条件ですので、両立支援の主旨が適切に理解され、健康経営の促進のためにもがん検診が普及されることを期待します。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

保健指導や健康診断の結果を踏まえ、受診者(労働者)に対して熱心に毎回運動やスポーツを勧める理由について述べてみます。
運動は病気の治療方法のうち、薬物療法、手術療法、食事療法、精神療法等とならび『運動療法』の一つとして活用されています。
特に健康増進はもとより国民病といわれる生活習慣病などの予防、治療、リハビリテーションに利用されるようになりました。
更に一部の疾患については運動療法、運動指導(機能訓練、物理療法など)を勧めます。これは医師が病気の治療後に医療費を請求する診療報酬の中で、薬の処方や手術料と同じように保険点数(月1回 1000円など)として認められるようになっているからです。

運動と医療(病気やケガを治すこと)が結びついたのは古代のギリシャやローマ時代において、人間の健康維持や病気の治療にランニング・レスリング・乗馬などのスポーツや運動が利用されていた頃からと言われています。
そして、以前より数多く「運動は健康を維持するために必要である」、「運動は体の各部分に適切に刺激が加わらなくてはならない」、「健康な人は規則正しく運動をすることが必要である」、「病気の回復期の患者においても必要に応じてそれぞれの体質に応じた特殊な運動を処方することが必要である(リハビリテーションなど)」、「特に座ったきりの生活をしている人には運動が必要である」と言われたり、そうした内容が書物に報告されています。

運動療法は主に患者を対象に考えられていて、現在の病気がどのような状態であるか、あるいは機能的に運動に耐えられる状態であるかを判断し、特に運動負荷の影響を受けやすい心臓、呼吸、神経機能、運動器官(筋肉・関節など)、その他に肝臓や腎臓などの機能を見極めて行うことが重要となります。
現在では運動が生体にどの程度負担をかけるのかが科学的にも解明されてきたので、病気の治療にも積極的に活用されています。よって言うまでもなく健康な人や日頃労働に従事している人には、健康経営のためにも運動は健康増進・病気の予防、病気の増悪予防、リハビリテーションに必要なことであり、活用する目的に応じて理想的には、運動処方を作成し実践することが望ましいと考えます。

まず手始めとして積極的に30分以上汗をかく程度の速さで歩くことです。はじめは少しづつ行い、3日でやめないで7日続けるようにがんばり、それが習慣となり行うことで、苦にならなくなったら成功です。
このように努力しても目に見えた成果はすぐには現れないのですが、身体機能は疑いなく改善されています。
努力しなければ何も生まれないことを心に強く思ってがんばりましょう。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

治療と職業生活の両立支援によって私傷病(生活習慣病等)を抱える労働者が、就労することによって受療が困難となり、疾病が憎悪したり、がんの再発が起こることを未然に防ぐために、医療機関の受診を容易にするよう配慮することを事業主に求めるようになりました。

すでに労働安全衛生法では、事業主による労働者の健康確保対策に関する規定が定められています。これによって事業主は健康診断を実施し、その結果をもとに医師の意見を勘案し、必要があると認めたときは就業上の措置(就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜勤務の回数の減少等)をとることが義務づけられています。
治療と職業生活の両立を支援することは労働者の健康を確保するとともに、継続的な人材の確保、労働者の安心感やモチベーション向上による人材の定着、生産性の向上、健康経営の実現、多様な人材の継続的な活用による事業の活性化、社会的責任の実現、ワークライフバランスの実現といった意義もあります。

「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」によると、対象となる疾病は、「がん」のみならず「脳卒中」「心疾患」「糖尿病」「肝炎」「その他の難病」など反復・継続して治療が必要となる疾病であり、短期的治療で治癒する疾病は対象とされていません。
労働者が健康診断を受け異常を発見され医療機関で受診することにより、また、以前からの対象療法等の治療などにより、就業上の不利益な取り扱いを受けるのではないかという不安をおこすことのないようにすることが重要です。特に企業倫理の課題でもありますが、病気により解雇される等の不安と恐怖をもたせてはなりません。

労働契約法でも労働者への安全(健康)の配慮として、第5条に、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」とうたわれています。このため、労働者が労働契約により従事する作業内容が必ずしも提供できなくなった場合も、使用者は配置転換や適切な作業にあたらせ、離職しなくても就労を継続できるように配慮し、生活が困難となる状況に陥らないよう努力が求められています。

労働安全衛生法第13条第3項においても、産業医は労働者の健康を確保するため必要があると認めた場合には、事業者に病気の回復を促進するための休業や労働の軽減などの必要な勧告が出来ることになっています。

よって事業主は、労働者が業務に起因しない私傷病になっても、そのことを理由として容易に
a.解雇したり
b.契約更新をしなかったり
 c .退職勧告をしたり
d.不当な配置転換や職位(役職)を変更する
などの措置をとらないように、努力しなければなりません。

病気になっても労働者が安心して治療に専念でき、病気の回復と職場復帰による継続的な就労が可能となり、事業の生産性の向上を目指すことが治療と職業生活の両立支援の主旨であることが社会一般によく理解されることを願っています。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

国は平成25年度より9月を「職場の健康診断実施強化月間」と位置づけて定期健康診断の普及に努めており、本年度から始まる「第13次労働災害防止計画(第13次防)」の重点事項のなかに、法定の健康診断実施後に、産業医などの医師からの意見聴取や適切な事後措置を実施することを加えています。
これまで、労働災害防止のためには、危害防止基準の確立、責任体制の明確化および自主的活動の推進が重要で、必要な措置を講ずるように言われてきました。
加えて、産業保健の3管理のひとつである「健康管理」は他の「作業環境管理」・「作業管理」と併せて重要なこととされてきました。
健康管理のうち健康診断については、適切な事後措置を行うことで健全な労働環境の構築につながります。
各種の健康診断のうち、医学的に基本的な項目について実施される定期健康診断については、事業主として労働者が元気で働くことにより最大の労働力の提供と生産性が上がることを目指して、担当者を配置し労働者の健康の向上を図る対策を行い健康経営の目標を達成するために企業負担で行っています。
健全な労働力を発揮してもらうためには、作業によって起こる身体影響だけではなく、当然、労働作業以外の生活においても体調の不調をきたすことはありますので、主な生活習慣病(がん、心臓病、脳卒中、糖尿病)等の医学的項目を健診項目に追加し、早期に異常な所見を発見し、改善することを進めたり、メンタルヘルス向上のためストレスチェックを行い、本人のメンタル不調に気づいてもらう対策(セルフケア)などが行われています。

一般的に健康診断結果は次のような判定区分で報告されており、適切な措置をとる必要があります。判定区分の内容について解説いたします。

A:【正常範囲】(通常、正常とか異常なしと記載されることが多い)
実施した検査項目において当日又は後日分かった数値が、一般的に正常又は異常なしとされている基準値の範囲内にあることを示しています。ただし健診項目は受診時間や経費のこともあり、制限があります。それぞれの受診者に必要な検査項目を充分に網羅するわけではありませんので、身体のすべてに異常がないと判定しているわけではありません。

B:【観察不要】
数値が基準値をわずかに外れているものの、医師の診察も含め健康障害があるとは認められないので、特に措置の必要はなく、今まで通り仕事の継続に差しつかえなしとするものです。

C:【要観察】
基準値を少し外れた項目などについて、保健指導を受け、食生活に気をつけたり、運動をするなど、自己管理による生活改善に努め、関連する内容の異常に気付いたら早めに医師や保健師に相談する必要があります。

D:【要管理】
数値が基準値の範囲を外れ病気の発症が疑われたり、これ以上数値が悪くならないように産業医(医師)や保健師の指導を受け、医学的管理内容を含めて生活改善に努めることによって病気の発症予防に努める必要があります。

E:【要精査、要医療】
数値が基準値から大きく外れたり、画像診断で異常な所見が発見された場合に、もう一度、医療機関において再検査を受けたり、健診項目に追加して必要な検査を受け、異常がない場合はそのままで良いが病気が発見されれば引き続き治療を開始し、あるいは必要に応じて定期的に医師の管理を受けるものです。

これらのA~Eの判定区分の記載は多種ありますので、主な判定の趣旨を正しく理解して事後措置をとって下さい。

事後措置(安衛法66条の4)には以下のようなものがあります。
a)【通常勤務】 労働契約、採用条件に合わせた作業を継続して行う。
b)【就業制限】 勤務による負担を軽減するため、配置転換、労働時間短縮、就業場所の変更(屋外から屋内へ)等を行う。
c)【要  休  業】 療養のため休暇・休職させる。時には業務命令で行わせる場合もある

以上第13次防においては、これらの主旨のことが重点項目に挙げられていますので、少しでも参考になればと思っています。健康診断を受けて、企業全体で健全な経営に努めましょう。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

「生活習慣病予防や肥満予防に運動をしましょう」と保健指導のなかで指導内容としてよく言います。
はたして「運動すること」が健康の保持増進や病気の改善などにどのくらい効果があるか、どのくらい科学的(学問的?)に明らかになっているのか少し考えてみましょう。
まず、運動の定義についても統一された概念があるわけではありません。もちろん生きている人間は、全て動くわけですので、単に身体を動かすこととして言っているわけではありません。
私が保健指導時に使う「運動」ということばは、以下のような大雑把な考え方で使っています。すなわち日常生活動作に加えて、更にエネルギーを追加する動作のことで、ウォーキング(散歩)やランニングを基本として、自転車こぎやダンベル体操のようなレジスタンス運動、又は体操やヨガ、球技、武道などのスポーツを30分以上継続して行い一定のエネルギーを消費する動作を表しており、かなりアバウトな概念で使っています。

運動効果の研究については、身体の機能維持、体重減少、筋肉増強、バランス機能維持などの内容についての報告は多数あります。しかし、生活習慣病の予防や改善の効果についての研究報告は、糖尿病や高血圧の改善についての報告がありますが少ないと思います。
肥満は生活習慣病の一因と言われていますので、運動のもたらす肥満防止について述べてみます。
最近では、科学的根拠に基づいた医療(evidence based medicine)ということが言われており、クスリや措置に効果があることを科学的データと、その解析によって証明することが必要となっています。そのため、運動することに肥満防止や体重減少の効果があることを、運動をする人、しない人等の比較研究で明らかにする必要があります。

例えば、肥満者を対象に運動の負荷による減量効果(体重減少や体脂肪減少など)を証明するためには、調査を始める当初に多数の肥満者に参加してもらい、肥満者を運動群(A群)と非運動群 (B群)に分けて観察していきます。一定期間後(少なくとも1年後)に体重等を測定し、A群とB群でどちらに体重減少した人が多いかを比較し、A群に体重減少者の割合が高いことを示すことによって、運動が減量効果をもたらすものであると評価するものです。
これらの研究成果を評価・理解するにあたり、解析モデルを作成して多変量解析という評価手法を使って解析しますが、人間を対象とする限り、厳密に運動以外の生活スタイルをコントロールすることが非常に難しく、また調査期間中に自ら進んで食事をコントロールする者があったり、普段運動しないのに運動(散歩など)をすることもあったりと、結果を左右する多くの要因を含んでいるため、評価が容易には出来ない場合があります。
また、運動の肥満予防効果を調査研究するためには、調査開始時に、肥満者はもとより非肥満者にも多数参加してもらうように計画し、この参加者をA群とB群に分けて長期間(1年以上)追跡し、調査終了時点にA群の方が肥満者(体重増加した者)の割合が少ないことで運動の効果ありとするのですが、長期間に亘り対象集団を追跡することは容易なことではありません。

そこで、普通の研究方法としては、ある会社の社員や自治体の住民を調査対象として、その中である一定の運動の範囲(基準)を決め、運動しているA群と運動していない(調査者の決めた運動の概念に相当しない)B群に分けます。そして、それぞれの群の人に、過去(今まで)に、どのような運動をしてきたかを面接調査し、体重を比較することが実施されます。生活パターンの異なる者を対象にするので、運動の多い人、中程度の人、少ない人などにさらに分けて解析するのは、評価をより一層複雑かつ不正確にすることになり、すっきりと科学的に納得のいく解析は難しいのです。

しかし、短期間(1年以内、数カ月内)の運動負荷によっても減量が見込まれるという報告が多くあることも間違いではありません。たとえ事例報告であっても現実に効果があることを科学的に明らかにしている報告も多くありますので、激しいスポーツや肉体労働をすることではなく、適度な運動をすることが健康の保持増進あるいは生活習慣病予防に効果があることは間違いありません。くどいようですが、運動することを生活習慣に取り入れられること勧めます。