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鳥取産業保健総合支援センター所長  能勢 隆之

 

最近、欠勤や休業後の職場復帰について、いろいろ検討されています。職場復帰ということは、その前に休職という状態が起こっていることになります。
休職とは、しばらくの間、働くことが出来なくなったと見込まれた時に、雇用関係を維持しながら一定期間働く義務を免除されることで、一般的には私傷病休職、自己都合休職、関連企業への出向休職等があります。
休職制度を各企業で取り入れているのは、労働力不足のこと等もあり、雇用条件を良くするため、法律で定められてはいませんが、私傷病などで働けなくなった正社員あるいは会社によっては有期契約社員や非常勤雇用社員について、社会通念上、急にそれを理由に辞めさせることが出来なくなったからです。

育児休業や介護休業のように法定休業は一般的に取るように推進されていますが、私傷病休職とか、自己都合休職には、事業場がやむを得ないと認めた場合に限るなど就業規則に定めておくことが大切です。
それに関連して、私傷病(生活習慣病、メンタルヘルス不調など)による休職について多くある課題の一部をあげてみたいと思います。業務外の傷病の場合、重篤であり長期の治療を要する例えば入院治療が必要で休職する場合は、申請にあたり医師の診断書を提出することが一般的ルールになっています。この時診断書に、治癒見込み、病気の経過を予測して書くのは困難な為、明確に記入しにくいことが多くあります。
産業医にとっても、主治医からの情報では判断することが難しいので経過を見ながらの判断(診断)になります。
もちろん本人と事業場側も連絡をとりながらになりますが、休職中は、雇用関係を維持したままの状態なので、復職の目途が立ちにくい場合は事業場全体の体制も立てづらくなります。

例えば、私傷病が感染症のような場合は、インフルエンザであれば他人に感染する恐れがなくなった場合(解熱して症状がなくなって23日経過した場合など)は主治医は復職可能と診断できます。しかし、最近のウィルス疾患は生命に影響を及ぼすようなものもあり、場合によっては労働者の家族にも出社を制限するように言うこともあり、復職についても複雑になっています。

また、結核のように慢性で長期間の罹病期間があり、休職も長期間になりますが復職については、結核予防法に定められていますので、主治医も比較的判断がしやすいと思います。

一方、最近では生活習慣病や精神疾患の復職就労支援が産業保健の対象になっています。高血圧、心臓病、がん(白血病など)そして精神疾患(うつ病、統合失調症など)は、寛解の経過(一時的に治療成績が好転したりあるいは症状が消失して完治は望めないが当面の適切な治療により社会復帰が可能な状態)をたどりますので、この状態では就労支援体制がしっかりとられれば復職が可能となります。
この場合でも、復職のためには主治医の診断書が必要となります。医師によっても判定が当然異なることがあっても不思議ではありません。また産業医によっても復職可能と判定しても就労条件などが異なることは十分予測されます。
復職後の体制の整え方など多くの課題があり、対策がまとまっていないので、今後(衛生委員会なども含め)あらゆる人の知恵を集めての対応が必要です。この所長のページでも総論、各論について意見を述べてみたいと思います。(次号につづきます)

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

 

新年おめでとうございます。
今年も鳥取産業保健総合支援センターは県内の企業・行政機関等で働く労働者の健康管理の支援に努力してまいります。皆様の御協力、御理解をよろしくお願い申し上げます。

厚生労働省は労働関係7法に係る「働き方改革関連法案要綱」を提示し、来年4月1日(改正法成立時期により変更あり)を施行期日と見込み、「働き方改革」を提唱しています。今年はその主旨に沿って時間外労働の上限規制や非正規労働者の処遇改善等の改正を目指しています。
そもそもこれらの施策は20年以上も前から2025年問題として言われていたことで、最近急に起こった問題ではありません。その基本は少子高齢化による労働者不足と年金受給対象である65歳以上の人口が一気に増加することです。特に地方においては社会的人口流出の加速により急速に人口減少となっています。

産業の原動力である労働者がいなくなれば企業の廃業はやむなしとなり、新規起業や企業誘致は期待出来ません。この対応措置としてとられるのが在宅女性の企業での活用、退職後の高齢労働者の再雇用、発展途上国からの外国人労働者の受け入れ等です。
この措置については、将来的な労働者不足現象の懸念に対する予防政策として提起されたのではなく、問題が発生してから事後対策としてとりあげられたので、実践するにはかなり困難な条件を内在しています。
また、これらの労働者の増加は、今までの産業保健の基本となっている終身雇用制度が実質的に変化していることであり、健康管理対策を立てる上で多くの矛盾を惹起しています。

たとえば各種有害作業や危険作業に不慣れな労働者を従事させることにより、急性中毒や墜落・転落などの災害の発生、および、女性や高齢者などの比較的体力不足の労働者が荷物運搬などの過重な労働により健康を害することが起こります。
また、共同作業、連携作業の不慣れによるストレス、パワハラの発生、能力不足(理解困難)のため知的ストレスによる身体異常の発生などにより、従来の健康な労働者としての健康管理の考え方では不都合、不適切な対応が発生することとなります。
職場の労働衛生対策についても、従来行ってきた基本健診や生活習慣病対策などに加え、職場における救急医療、外国人労働者なども含めた労働者間のコミュニケーション不足、労働安全衛生法令上健康診断が義務付けされていない労働者の健康管理、特にメンタルヘルスなどへの対策の必要性が生じています。

一方で、人工知能やロボット、機械化の導入等による労働者のテクノストレス、疲労蓄積と対応不足がふえています。
これらを考え、毎年同じことを繰り返して行う基本健診を毎年受診すること、ストレスチェックを年1回行うことで労働者の健康と精神状態の変化のチェック、そして作業場のメンタル不調のモニターを実施することが必要です。

企業の健康経営の考え方が普及し、安全・安心な企業活動が更に前進する戌年になることを願っています。


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

 

新たな労働政策として働く人の視点に立った「働き方改革」を推進することが注目されています。基本的な背景として、少子高齢化による労働力人口の減少があり、女性や高齢者等の労働力化の制約要因をなくすことにより、中小企業や小規模事業場の人手不足を解消することを目指しています。

このため、一度退職した労働者の再雇用(高齢者雇用)や女性を育児・介護から解放して職業に就くことを可能にする体制を構築しようとするものです。このことは高齢者や女性の生活スタイル、人生設計が変化することを意味しています。また、がんなどの疾患に罹患して治療中であっても、ある程度の体力を維持しながら生存が長くなり、病気の治療をしながら職業生活を継続することが可能となったことから、治療と就労の両立支援対策などが提案されています。
このことは、病気になったら仕事をやめてゆっくり療養をして延命をはかるという医療の考え方を変えることでもあり、これに基づいた産業保健のコンセプトを変える必要があるとともに、新次元での施策を取り入れなくてはならなくなってきていることを示唆しています。
一方、終身雇用体制の減少、非正規雇用の増加、そして少子高齢化・労働人口の減少等により、年金・社会保障制度の不安定化が起きています。一生涯、同一の企業に滅私奉公するという考え方が、若い世代の労働者に浸透しなくなり自ら進んで終身雇用よりも非正規雇用を望んだり、会社という群れや組織に束縛されることを嫌がり立身出世を望まないフリーターやニート現象が拡大しつつあります。
このように日本の文化であった終身雇用制度が崩れていき、就労形態が変わり、短期間労働を繰り返す度に従事する仕事の職種が変わる(事務作業から製造業の現場作業へ転職するなど)事により、従来、産業保健分野で伝統的文化にのっとって作りあげてきた職場の健康対策を見直さないと健康管理が難しくなっています。

例えば、有害作業に数年間続けて従事することをベースにして健康に影響が出るか出ないかを継続的に経過観察してできた健康判断基準が適応しにくくなり、短期間労働であっても変化する所見について注目し判定する必要性があります。
高齢の労働者はもともと加齢により身体の異常を少なからずもっていることや、女性労働者の健康障害の判定も職場の労働のみに着目して判定することでは不十分で、家事労働など総合的に見て判定する必要があります。
健康な労働者の管理から労働者の生き方、生涯を見通した判断が必要であり、産業保健の基準を新たに構築することも必要になってきている現状を思います。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

 

戦後 経済復興を目ざし、経済成長至上主義の考え方をベースに企業も労働者も将来設計を建てるようになり、社会的価値観として立身出世は美徳であると社会で受け入れられました。自分の価値をあげるため多くの人が高学歴を得ることが自分の将来を安定させることと考えるようになり、学歴社会が形成され、親の子育ても学業成績の向上に集中するようになりました。そして、社会で成功を修めることは、どの分野でも上位につくことが望ましいと理解されるようにもなりました。

企業等の雇用体制も終身雇用制を採用し、年功序列により昇進することが普通である体制であったので、同一の社会や会社組織のなかで上位になるためには、一生懸命努力して会社で認められ、その結果が立身出世に繋がるようになっていました。
しかし、時代の流れにつれて、グローバル化が進行し、主に経済の分野において、このままでは日本は世界で活動できなくなると危惧され始めてからは、世界標準に合わせた競争原理を取り入れた社会経済的発展を目ざし、「実力主義」、「成果主義」を会社の体制に取り入れるようになりました。それは労働現場にも導入され、成果を出した者が上位に評価されるようになり、高収入を得るようになりました。

このため終身雇用制や年功序列が見直されるようになり、ITなどの技術革新の急速な普及により、古い世代は困惑し、社会の進歩についていくのが困難になるとともに、団塊世代以降の若い世代には、成果主義・実力主義は普通であると理解されるようになっています。
使用者はもとより労働者も、企業で採用され、労働することは企業に利益をもたらす成果を出すことが当然のことであるという傾向になり、労働者は成果を出すため時間外で働くこともやむを得ないと思うようになりました。このことは労働者に身体的にも肉体的にも過重な負担をかけるようになり、精神的に異常な反応が出てきたり、身体的疲労と障害を起こすようになってきました。

こうした現状から、産業保健の分野で「メンタルヘルス対策」や「過重労働対策」を重要な課題として取り上げるようになった事は多くの人が認めるところです。
これらの一環として、長時間労働による過労死が話題となり、産業保健の新しい課題となっています。働き過ぎるということが、以前から課題として提案され、このことが健康障害を起こす重要な要因であると学会等でも報告はされていました。長時間労働を続ける事による身体異常として、まず本人自身が、疲労感があると自覚した上で、自覚症状調査を健康診断に取り入れてモデル的に行われましたが、過重に対する反応は個人差が多く、疲れたという状態を医学的検査で予見或いは異常であるとチェックすることは困難と見なされたまま今日に至っています。

ストレスチェック制度による調査では、労働者が自覚的にチェックすることで自分のストレスの状態を知り、気づきを促し、事業者は仕事を軽減させる等の改善を図ることを目ざしています。労働することでメンタルにストレスがかかり、それによって精神的に異常な反応が起こることを、常に予期しながら、毎年チェックすることにより、労働者自身がメンタルヘルスの不調になる前に早く気づき、会社側も不調を未然防止することを目的として行われています。
しかし、これらの対応の前に重要なことは、冒頭にも触れたように、国民の働き方改革、価値判断の改革がなければ対応することが出来ないと思います。産業保健も従来の労働災害や労働環境によって起こる健康障害の予防から、次の段階に対処し進歩する必要を感じるようになりました。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之

 

今年の全国労働衛生週間のスローガンは「働き方改革で見直そう みんなが輝く 健康職場」であります。主旨は、働き方の改革を実践することにより、それぞれの職場における健康管理や職場環境を見直し、改善を図り、全ての労働者が輝いて働ける職場構築を目ざすことが期待されていると思います。
重点事項には⑴治療と仕事の両立支援、⑵化学物質による健康障害防止、⑶メンタヘルス対策、⑷過重労働による健康障害防止などがあげられています。
⑴の治療と仕事の両立支援については、持病を持ち治療を継続しながら就労している労働者に、医療の現場では、勤務時間後に治療時間を設定する、診察頻度を可能な限り少なく制限する、就労時に体への影響を少なくするよう薬の選択や投与量を調整する等、あらゆる事への配慮が必要となります。
これに併せて事業場側においても、労働時間の短縮や有給休暇等の取得体制が構築され実行されれば、両立支援はより容易となり病気の経過・改善は良好に繋がるものと思われます。
また⑷過重労働による健康障害防止も「過労死等防止対策推進法(平成26年)」の施行により、今日社会問題となっている長時間にわたる時間外・休日労働により発生する「過労死(脳・心臓疾患等に起因する病死)」や「過労による精神疾患(メンタル障害も含む)」が注目を集めています。少し前までの過重労働といえば、重い荷物を持ち上げて運搬する作業や激しい力作業、また体勢の悪い作業姿勢、温度・湿度などの厳しい作業環境下での労働等について着目し、体力づくりや腰痛防止など筋骨格系の強化改善を行ってきました。
そして現在とりあげられている「過重労働」は、従来の物理的な身体負担から、時間的長さが心身に及ぼす負担要素を主に注目してとりあげられ、国は労働時間が月45時間を超えて長くなるほど脳・心臓疾患の発症との関連性が強まるとの医学的所見を受け、「過重労働による健康障害防止のための総合対策」を策定しています。

「過重労働」については、産業構造、企業経営のあり方、労働者自身の生き方や働き方、自分の体調に合っているか等の医学的知見や社会経済的な事など広く多くの事項が関わっており、そのため内容によっては改善しやすい事柄もあります。
産業医の役割も従来とは少しずつ変化し、長時間労働者に対して面接指導・助言することが必要となり、そのために事業主から作業実態などの情報提供を受け、その情報をもとに適切な指導・助言を行うことが今まで以上に現実的に求められています。

ところで労働時間の「ファクター」のみを見たときに、それがどのように健康に影響を与えるのかという医学的知見はほとんど明らかにされていません。
日本の労働基準法では「一日8時間、週40時間労働」を取り入れています。このことの起源をさかのぼってみますと、18世紀ごろイギリスで産業革命の頃の事ですが、一日14時間以上を労働時間と設定し生産性の向上を目指していましたが、作業時間が長過ぎると反対に生産性は低下し、労働者の健康問題が発生したことにより見直され、週5日制等も取り入れて「一日8時間、週40時間労働」を採用するようになったことが始まりと言われています。

一日8時間労働が本当に身体の健康面を考慮して適切かどうかの根拠は明確ではありません。そのため適切な労働時間を、研究で明らかにすると共に、どれくらい超過すれば「長時間労働」というのかを解明する必要があります。
事業場での作業容態や労働環境は多様ですから困難とは思いますが、産業医はある程度科学的根拠をもって相談・指導・助言にあたる必要がありますので、この分野の専門的研究が開発され、促進される事を期待します。