鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
”病気は予防することが大切である”と言うことは、万民の認めるところです。しかし、日常的に予防対策を積極的に実践することや、行政予算で建築物を建設するように予防対策に多額の経費をかけることには、すんなりと取り入れられることが難しい傾向にあります。健康の維持については、個人的な努力や価値観によるところが多く、公共の建物を建てることの方が公共性があるため、優先されるのであろうと考えています。
疾病の第一次予防(健康増進、予防接種)は、人生を健全に送るためや、労働者が就労活動を継続するために当然なことであり医学・医療の究極の目標であります。
平成27年12月から実施されるストレスチェックは、労働者の精神保健活動の第一次予防に着目した対策です。これは日常の生活や就業活動においてストレッサー(身体が受ける刺激)に対してストレス反応が起こり、体調が不調をおこしたりするので、これに早く気づき上手に対処して、労働生活が乱れないようにすることを目指しています。
病気の原因や関連要因が分っているものは対処しやすいのですが、生活習慣病(心臓病、高血圧、糖尿病 がんなど)は、老化現象に関係し、長い間の生活習慣の不良にも関連しているので、だれでもが経験することであり、対策が難しいことです。
メンタルヘルスもストレッサーに反応するわけですが、その反応の大きさは個人によって異なるので対策も多様でなければなりません。
病気の原因や要因を明らかにするために疫学という学問がありますが、病気のある人とない人について原因や要因を比較することによって、それらの関連の大きさを明らかにする研究や調査を行います。人間の生活は多様であり、性、年齢、人種によって、あるいは個体差によって同じ要因に対する反応も異なり、全ての人に関連する要因を科学的に解明することが困難な場合が多いので、その活用方法も十分に検討を要することがあります。
それでは、病気の予防のためには、何をどうすれば良いのか、ということになります。一般的には生活習慣が乱れることなく規則的な生活リズムを維持し、快適な行動パターンを実践することを基本に、食生活では好き嫌いなく32品目以上の食品を摂取し、バランス良く栄養素を摂取し、適度な運動を毎日実践し、エネルギーのバランスを良好に保つことが重要になります。
特に、老化予防には筋肉や関節等をよく動かし可動域が少なくならないように維持し、特にアミノ酸、ミネラル、ビタミンなどの摂取に注意をすることが大切です。
仕事における精神活動においても、ストレッサーに対して気づかないままに身体の不調をきたし、精神的にイライラ、不安、怒りなどがよくおこり、身体的には動悸、息切れ、吐き気、下痢、腹痛、そして肩こり、頭痛がおこります。早目にストレスと関連があることに気づき、一人で悩まないで、 医師などに面接・指導を受けることにより対応することが必要です。
産業保健の重要な目標の一つは、第一次予防を日常生活や職場生活で実践し、健全で楽しい労働生活を過ごすことを可能にすることであります。
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
産業保健(労働衛生)は、あらゆる職業に従事する人々の業務に起因する負傷・疾病・障害・死亡などの健康障害の発生を未然に防止することと、労働者の健康増進や快適な作業環境の構築することを目的としている。このことにより企業の生産性の向上がはかられ、業務の人間への適合と人間の業務への適応がはかられることが期待されている。
また、労働者の精神的・肉体的・社会的健康の増進からはじまり、作業環境管理、作業管理、健康管理のいわゆる労働衛生の三管理を総合的に実践することにより、今日的課題である過重労働の防止、メンタルヘルス対策など、心の安全・安心・人間関係の良好な体制づくりにまで対応するようになっている。
医学分野の労働衛生では、主にいわゆる職業病の原因と病態の解明を行うことによって疾病の予防体制を確立することを行っていましたが、いわゆる職業病などに関係した特殊健診よりも、生活習慣病に関する健康診断が多く実施されている。
また、山陰労災病院では、病院の開設当初から長い間、女性の労働を軽視していたこともあって、診療科に産婦人科を設置していなかったが、2013年に産婦人科が開設され、それに伴い小児科も開設され、総合病院として機能するようになった。
産業保健の範囲も、メンタルヘルス(心の健康)、パワーハラスメント(パワハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)の予防にまで拡大されているので、産業保健従事者は今までの活動の範囲を越えて活動したり対応する必要がある。
産業医や産業看護職そして衛生管理者などのあり方も労働と疾病という関係のみではなく、職業に従事する人間として労働者に対応し、生活全体(職場、家庭、社会生活)を考慮に入れた健康管理と指導が大切となっている。
その上、人口の高齢化に伴い労働者年齢が上昇したことにより、年齢に応じた労働者の身体機能を十分に考慮した作業の工夫と適性配置を実践しなくてはならなくなった。これらのことなど、急速に変化する労働者の状況に対応した支援を可能にする体制を実現しなくてはなりません。
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
産業保健を支援する実施体制は、47の都道府県に、その拠点として「産業保健総合支援センター」(以下センターという、鳥取県では、鳥取市扇町に設置)と地域産業保健事業を支援する地域の窓口(地域産業保健センター、鳥取県では、東・中・西部の医師会館内に設置)が連携して行っています。
センターは県内全事業場を対象として専門的な産業保健(メンタルヘルスを含む)相談、産業保健スタッフの研修、産業保健に関わる情報提供等を実施し、地域の窓口(地域産業保健センター)は県内の主に労働者50人未満の小規模事業場を対象として、労働者の健康増進(メンタルヘルスを含む)に関する相談、健康診断の結果についての医師からの意見聴取、長時間労働者に対する面接相談など広く実施しています。また、メンタルヘルス対策支援事業とも一元化され、こころとからだの相談が一度の手続きで「ワンストップサービス」として必要な支援が受けられるようになりました。
産業保健サービスも時の流れにつれて内容が変化して、作業環境管理や作業管理が改善されたことにより、特に職業性疾病は業務上の負傷や事故を除けば、物理・化学的因子や中毒による疾病は激減しています。それに変わり、定期健康診断では、生活習慣病のような一般疾病が労働者の健康に影響を与えています。また、作業内容の変化や職場の人間関係が複雑化することによりストレスなどによる精神障害に関する事象も増加し、産業保健対策も更に進化し検討しなくてはならないと思っています。
生活習慣病管理は医療との連携が重要であり、産業保健を担当するスタッフ(医師・保健師・衛生管理者等)は、臨床医学的知識・技能・対応を習得する必要があり、産業保健スタッフ研修のテーマにも生活習慣病などについて取り入れると共に、センターや地域の窓口は医師会機能に密着して運営することも視野に入れる必要を感じています。これらのことを念頭に入れ、産業保健の支援事業もさらに発展させるため活動の方向を充実改善することが大切と考えています。
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
大型連休も明けて、”休みぼけ”から仕事に体調を合わせることに努めている人も多いと思います。
季節の移り変わりも早く、この間まで桜見物を話題にとりあげていましたのに、もう つつじも満開となり、松の木の「みどり摘み(今年新しく伸びはじめた新芽を摘み風雅な樹形を調えるために美しい枝振りをつくる手入れをすること)」をしなくてはならない時期になりました。
新入社員も会社組織や仕事内容に上手に適合する者もいれば、「五月病」にかかり、職場に適合出来ず一人で悩んでいる者もでてくる時期であると推測されます。
そのため、「みどり摘み」のように手入れ(適切な相談と指導、助言)をしてやることによって、それぞれの職場に適合出来るような体制を調える時期でもあります。
仕事に上手に適合した者はほめてやり、一層その人の特徴を伸ばすことの出来る体制をつくることや適合困難な者には、メンタルヘルスの不調を未然に防止するため、一次予防(精神的健康の保持・増進)の実践が必要な場合があるでしょう。
携帯電話のメールでコミュニケーションに慣れた世代を育てるための方策に”赤ちょうちんで飲んで話し合う”では、とても共感や理解をえることができるとは思えません。
人事課の担当者や上司など管理者は産業医等と相談して、ストレスチェックを活用して各個人のストレスの程度や内容を把握し、個別の課題に対応する策を講じることが重要となります。
産業保健総合支援センターでは、専門的相談員の指導を受けながら、地域産業保健センターでは鳥取県内の東・中・西の各医師会に配属されているコーディネーターを通じて、それぞれの事業場の協力を得ながら、取組みやすい体制を調えていく予定です。
産業保健の発展のために、皆様の御理解・御協力をお願いいたします。
鳥取産業保健総合支援センター 所長 能勢 隆之
新年度になり、日本では入学式や入社式などを迎え、各部署では、新人や新任の者が活動をはじめ、人事異動の者も新しい職場で今まで以上の実力を発揮するように気持ちを新たに行動を開始しています。
自己紹介がおそくなりましたが、本年4月1日より本センターの所長に就任いたしました能勢です。よろしくお願い申し上げます。産業保健の分野を大学の教官に就任して以来、教育・研究の重要な課題として取り組んでまいりました。
産業保健の課題は急速に時代の流れとともに変遷しています。私が産業保健に携わるようになった頃は劣悪な作業環境が多くあったため、いわゆる職業病(鉛中毒、振動障害、じん肺、有機溶剤中毒、各種化学物質の中毒疑いなど)がかなりあり、労働者健康診断も特異な分野の医学の実践をすることが多くありました。それが今日では生活習慣病やメンタルヘルスなどポピュラーな疾患を視野に入れた健康診断がややもすると主流となった労働者の健康管理になっています。
古い桜の木が毎年美しい花を咲かせていて、昔の人もこの木を花を見て楽しんだのであろうと懐古にひたっていると、すぐ横で若い木が植樹され若い芽を出し古い木が朽ちても次世代が育っています。
この若い木が隆盛してくれるのも、そんなに遠くはないと感じています。
経験豊富な先達は未経験の世代がしっかり育つまで道を示すと同時に体制をつくっておくことが大切です。
不景気になると、労働環境が劣化しかねません。快適な労働環境を維持し続けるのがなんとなく困難になっていくことを感じます。
4月という新旧交代の時期、改めて社会に大切なことは何かを見据えて諸現象に対応することが必要と思います。
本センターは、産業保健推進センター事業、メンタルヘルス対策支援事業、及び地域産業保健事業の3事業を一元化して、平成26年4月1日にスタートしています。
産業保健関係者を支援するとともに、職場の健康管理への啓発の目的を達成するため、みなさまの御理解と御支援を得る事によって本センターの機能が発揮出来るように努力しますと共に尽力したいと思っています。