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鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

「地震に備える」

 

2024年1月1日午後4時10分頃、石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6の地震が発生し、
石川県で最大震度7が観測されたほか、北海道から九州の広範囲で地震による揺れが観測されまし
た。被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。

鳥取県でも、震度3以上を記録しました。椅子に座ってくつろいでいた私は、当初地震と気づか
ず、めまいがしているのかと思いました。直後のテレビニュースで地震と知り、さらに日本海沿岸
に津波警報・注意報が出されたので驚きました。鳥取沿岸では最大1mの高さの津波が到達すると
予測され、実際に境港市で60センチの津波が観測されました。小規模とはいえ津波が襲ってくる
とは想像もしていませんでした。能登地方では、2020年12月ごろから地震活動が活発な状態が続
いていて、2023年5月には震度6強を観測しました。私は、金沢からの帰りの列車でその地震に遭
遇し、列車内の携帯電話から地震速報のアラームが一斉に鳴り響き、車内が一瞬緊迫した雰囲気に
なったことを鮮明に覚えています。震度6と大きな地震だったので、その後は徐々に地震活動はお
さまるのではと素人ながら思っていましたが・・。

専門家によれば、2011年の東北太平洋沖地震を契機にわが国は地震の活動期に入ったと考えられ
ています。地震を避けることはできません。地震に備えねばならないと改めて感じた新年でした。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

「外国人労働者」

 

外国人技能実習制度について、政府の有識者会議から、人材の確保と育成を目的とする
新たな制度を創設するとした最終報告書が11月24日に公表された。外国人技能実習制度は
外国人が最長で5年間働きながら技能を学ぶ制度だが、厳しい職場環境に置かれた実習生
の失踪が相次ぎ、人権問題も指摘されていた。国際貢献という目的と実態とのかい離が指
摘されてきた現在の制度を廃止するとした。新たに外国人材の確保と育成を目的に掲げた
制度を設けるとしている。

このニュースを聞いて、40年ほど前の人口学の権威であった重松俊夫教授よる「人口学」
の特別講義を思い出した。重松先生は鳥取大学医学部の助教授を経て福岡大学医学部の公衆
衛生学の教授に就任され、鳥取大学医学部の非常勤講師も務められていた。当時、私は鳥取
大学医学部公衆衛生学教室の助手として特別講義の補助をしていた。「人口学」の講義は格
調高く、その最新の知見は学生を魅了するのでした。わが国で少子高齢化が進めば、まず問
題となるのは労働力の不足であり、将来その対策の議論(定年延長、外国人労働者、移民政
策など)が必要になるだろうと述べられていた。その予想どおり我が国の労働力不足の問題
は水面下で進行していたが、女性の雇用促進、定年延長、日系人の活用に加えて、既存の制
度を利用した外国人技能実習制度で何とか対応してきた。さすがに、既存の制度では対応し
きれなくなったのだろう。今回のニュースは、新たな動きを予感させるものであった。
すでに、国立社会保障・人口問題研究所は、将来人口推計に基づく2070年の外国人労働者
依存度について労働者に占める外国人比率は2070年に 12.3%(現在1.2%程度)まで拡大し、
外国人が日本社会を下支えしていく構図が明確であると述べている。外国人労働者に対応す
る産業保健の構築が急務なのは間違いないようだ。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

「今年のノーベル賞」

 

今年(2023年)のノーベル賞では、3人の女性の活躍が目立った。医学生理学賞はハンガリー人
のカタリン・カリコ氏で、新型コロナウイルスのmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンの開発
で大きな貢献をしたことが授賞理由である。ハンガリーのセゲド大学での「mRNA が免疫系によ
る癌組織の認識と破壊にやくだつか?」という講義に興味を持ち、その後一貫して RNA研究に取
り組んできたと紹介されている。ハンガリーでは、思わしい研究成果があげられず、研究費が得
られなくなった。そのため、研究費を求めて、アメリカに移る決断をしている。なけなしの全財
産900ポンドを2歳の娘が持っていたテディベアの中に隠して出国したという逸話が残っている。
その後、ペンシルバニア大学に移り、免疫学者ドリュー・ワイスマンと出会い、今回の受賞対象
となる研究成果を上げている。しかし、ペンシルバニア大学でも、研究費が打ち切られている。
母国をすててまで、一つの研究テーマに打ち込む姿勢には驚かされる。

ノーベル経済学賞は、アメリカのクラウディア・ゴールディン氏が受賞した。「労働市場に
おける男女格差の主な要因を明らかにしたこと」が授賞理由である。長年にわたる多数の論文
が業績に該当するため、その業績全体を簡潔には説明できないようである。業績の一つに「グリー
ディー・ジョブ」(強欲な仕事)があげられる。労働時間が長いほど時給が上がり(直線的で
はなく曲線的に増加)、評価される。これが、過重労働対策のむつかしさや男女の賃金格差の
一因ともなっていると指摘する。彼女は、1990年にハーバード大学経済学部に着任し、同学部
で初めて、女性として終身在職権を獲得された。70歳を超えた現在もハーバード大学経済学教
授である。

ノーベル平和賞は、イランの女性人権活動家ナルゲス・モハンマディ氏で、現在収監中である。
最近、刑務所でハンガーストライキを始めたと伝えられている。治療のために病院に行く際、
頭を隠すスカーフを着用することを拒んだため、当局は病院に行かせなかったことに抗議した
ことが理由のようだ。3人の受賞者の気力・胆力に感服するほかない。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

「若手育成とアレ」

 

阪神タイガースの岡田監督は、1年間、優勝という言葉の代わりに “アレ” を使い続け、大きな話題となった。その阪神が2005年以来18年ぶり6回目の優勝を果たした。“アレ” を使い続けたのは、優勝を意識し過ぎないように、つまり過度のプレッシャーを感じることなく、のびのびと野球を楽しんでもらいたいという配慮であろう。岡田氏は、阪神、オリックスで監督を歴任しているが、オリックスでは2軍助監督、阪神では2軍監督も経験するなど、若手育成の経験も長い。その経験を踏まえて、2018年のインタビューでは、長所を伸ばすことに主眼を置いた若手育成を行っていると語った。従来、長所を伸ばすこと以上に、短所を補う指導が主流だったが、時代と共に選手の気質が変化するのに合わせ、指導者もまた接し方を変えていく必要があると力説していた。また、今季の阪神の四球の大幅増も話題となった。岡田監督は、「ボール球をふるな」として四球の査定ポイント(給与に反映される)評価をアップさせた。それが球界一位の452四球につながった。「ボール球をふるな」は投球された球をよく見ることであり、野球の基本中の基本である。高度な野球技術を重視したのではなく、野球の基本を重視したのである。

厚生労働省による「新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率」の調査(2021年)によると、新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率は高卒就職者で36.9%、大卒就職者で31.2%にのぼる。労働人口の減少が見込まれている今、若手の人材育成、定着率の向上は多くの企業にとって喫緊の課題となっている。若手育成に関して、阪神の成功例はおおいに参考になるだろう。ただ、言うはやすく行うは難しである。

私も、過度なプレッシャーをかけないように「固く考えずに、“50%”ぐらいの力で取り組んだら」と若い人に助言した。するとすぐに「“30%”ではいけませんか。」と返された。“アレ”はなかなか難しい。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

「最も暑い夏」

 

気象庁によると、今年の6月から8月まで3カ月間の気象の記録で、夏の平均気温が過去126年で最も暑くなったことが分かった。平年と比べて1.76℃高くなり、各地で最高気温35℃以上の「猛暑日」の日数が過去最多を更新した。さらに、最高気温37℃以上の体温越えの日も頻繁にみられるようになった。

20年ほど前に鳥取大学乾燥地研究センターの人工気候室を用いて高温低湿度環境における自覚症状や発汗について調べていた。当時、サウジアラビアで国外からの巡礼者に熱中症が多発してその対策が課題だったことや、乾燥地で活動するセンターの学生や研究者の熱中症の予防という観点から乾燥地保健として行っていた研究である。人の感じる暑さの感覚や発汗を気温37℃で相対湿度20%と40%で比較した。気温37℃相対湿度20%は、乾燥地を想定したものである。湿度40%では、かなり暑く感じ活動しづらいと感じる環境であったが、湿度20%では、暑さはそれほど感じず、活動可能な環境であった。それは、高温でも低湿度なので、汗がすぐに蒸発して気化熱で効率よく体温上昇が抑制されるためであろう。しかし、高温下で暑さを感じないことは、要注意である。高湿度環境の国の人々が高温乾燥地の活動中多量の汗をかいても、発汗した自覚に乏しいので、水分補給が遅れ、脱水症さらに熱中症になりやすいと考えた。そのため、乾燥地での熱中症の予防対策として、定期的な塩分を含んだ水分補給例えば、30分から1時間おきにコップ一杯程度摂取することが重要であるとまとめた。

今年の山陰は、最高気温37℃以上湿度50~60%前後の日が続いたが、暑さ指数WBGT値に簡便法で換算するとWBGT値32~34となり日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針」の「危険」に該当する。屋外での労働、スポーツや外出をひかえることが推奨される暑熱環境である。ちなみに気温37℃湿度20%、湿度40%のWBGT換算値は、それぞれ、WBGT値27(警戒)、30(厳重警戒)である。湿度が変わると暑さの感覚だけでなく熱中症の危険度も大きく変わる。異常高温下で湿度が高くなると、多量の汗をかいても気化しにくいので、体温上昇を抑えることが困難となる。今後も暑い夏が進行するとすれば、屋外活動の厳密な制限や対暑熱保護服の着用の義務化をはじめ社会全体で様々の対応が必要になるだろう。

先に述べた実験では、当初実験条件として気温37℃相対湿度20%、40%、60%の比較を検討した。結局60%は設定しなかったが、その理由は、気温37℃相対湿度60%は安全性の懸念があったこと、稀な特殊環境で日常的な環境として想定できなかったことである。