鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一
「日本人の平均寿命」
◇厚生労働省は7月28日、2022年の日本人の平均寿命を発表しました。日本人の平均寿命は、男性が81.05歳、女性が87.09歳でした。2021年から男性は0.42歳、女性は0.49歳、男女ともに2年連続で短くなりました。前年からの下がり幅はいずれも過去最大となりました。2022年はオミクロン株が広がり、約4万7600人が死亡して平均寿命を押し下げたようです。ただ、国別の比較では、女性は1985年以来連続で世界1位、男性はスイス、スウェーデン、オーストラリアに次いで4位ですが、男女合わせると平均寿命が世界一長いことには変わりありません。
◇一方、平均寿命に関して、近いうちに日本はスペインなどの国々に追い抜かれるのではないかという予測があります。その要因として、日本人男性における、高血圧、糖尿病などの生活習慣病と深く関連する肥満の増加があげられています。国民栄養調査によると、Body Mass Index(BMI; 体重(kg)÷身長(m)÷身長 (m))が 25 以上の人を肥満と定義した場合、昭和55年から令和元年までに、日本人男性の肥満者の割合が20%弱から33%へと増加していました。この原因として、食生活の変化に加え、仕事の身体活動の低下や車への依存が推測されています。
◇さらに、子供の貧困の問題があります。子どもの貧困率は、1980年代から上昇傾向にあり、今日では実に7人に1人の子どもが貧困状態にあるとされ、OECD加盟国の中で最悪の水準です。ある調査によると、低収入世帯では朝食を食べていない子どもが、非低収入世帯に比べて1.8倍高いという結果がしめされています。また、インスタント食やコンビニ弁当ばかりの食事で栄養摂取の偏りがあるようです。「子ども時代の貧困は50年後の健康を損なう」と言われています。長寿国日本として、このような状況をそのままにしてよいはずはありません。
◇
鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一
「異次元の少子化対策」
◇ある世論調査では、政府の掲げる「異次元の少子化対策」に対して、働く女性の60%が期待しないと回答し、マスコミからは昭和的価値観に失望と評されている。
◇多くの先進国で少子化対策が課題となっている。その中で、スウェーデンの少子化対策は、成功例としてよく紹介される。1983年に合計特殊出生率が1.6まで低下した後、 様々な社会サービスを充実させて、 1990年代に合計特殊出生率が2.0を超えるまで回復した。1992年、私は振動障害の研究のためストックホルムに滞在してので、たくさんの乳母車が往来する状況を目の当たりにした。
◇男性の8割以上が利用する育児休業制度、16歳未満児まで支給され多子の割り増しもある所得制限のない児童手当、充実した乳幼児の保育サービス、小学校低学年の8 割以上が利用する学童保育などの社会サービスは世界的に知られている。
スウェーデンの少子化対策は、歴史的背景のあるジェンダー・家族政策が基盤にあり、男女機会均等に始まり、女性の結婚、妊娠、出産、育児に関する障壁からの解放に努めたことに特徴があると言われている。
◇世界経済フォーラムによる日本のジェンダーギャップ指数(「経済」「教育」「健康」「政治」の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示す指標)は、2023年0.647で146カ国中125位だった。先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国より低い結果となった。ちなみに、スウェーデンは5位である。
2006年の第1回は0.645で、115カ国中80位だったが、以降順位は下落し、過去最低となった。他国が格差解消の取り組みを進める一方、日本は取り残されている状況だ。また、日本は「経済」「政治」分野が極端に低いといわれている。少子化対策が最重要課題であり、待ったなしであることに異論はない。しかし、この順位で、「異次元の少子化対策」と称するはどうなのだろう。
鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一
早くも梅雨入り 豪雨に注意
5月29日、中国地方は昨年よりも13日早く梅雨入りとなりました。梅雨は湿気が多く、多くの人にとって気が重くなる季節です。そんな梅雨の日は、着心地のいいルームウェアを用意、コーヒーで幸せなひととき、ツボ押しで日頃の疲れをとろう、本を読んでリラックス、温泉施設でまったり、映画鑑賞を満喫など梅雨の時期の楽しい過ごし方がインターネットで紹介されています。
◇この時期の雨は、田植え後の稲(苗)の成長を促す“恵みの雨”で、梅雨は自然界で必要不可欠なものと考えられています。梅雨入り宣言は、湿気が多く、気が重くなる季節の到来を知らせるものではなく、稲の成長を促す“恵みの雨”の到来を知らせるものでしょう。
◇しかし、近年、梅雨時期の“集中豪雨”による災害が目立つようになりました。中国地方でいえば、広島県から岡山県にかけて甚大な被害をもたらした平成30年7月の西日本豪雨が思い起こされます。個人的にもゲリラ豪雨に遭遇して車が立ち往生したこともあり、その怖さを身近に感じます。気象庁は、梅雨入りの発表と同時に大雨による災害への備えの呼びかけをしています。最近では気象庁から豪雨をもたらすとされる線状降水帯の予測が行われるようになりました。梅雨入りは、”豪雨に注意“の知らせでもあります。
鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一
春の熱中症
今春5月、ゴールデンウイークを含めて高温との予報で、春の熱中症が懸念されています。夏の猛暑で知られる埼玉県は、4月28日に早くも熱中症予防の注意喚起を行っています。
春の熱中症に注意しましょう~5つのポイントで熱中症予防~
(1) 高齢者は上手にエアコンを
(2) 暑くなる日は要注意
(3) 水分はこまめに補給
(4)「おかしい!?」と思ったら病院へ
(5) 周りの人にも気配りを
埼玉県健康長寿課ホームページ「熱中症予防5つのポイント」
大学の教員時代、春の熱中症について、大学院生と調査・研究したことがあるのでその一端を紹介しましょう。鳥取県の2017年4月から9月までの熱中症による救急搬送データ(熱中症を全数把握するのは困難ですが、発生状況のひとつの指標として救急搬送数が用いられます。)と気象データを組み合わせて分析したものです。
救急搬送データを用いた4月から9月の間に405人の熱中症による救急搬送がありました。搬送数は7月(199人)が最多で、次いで8月(134人)、5月(33人)と続きました。4月から5月の春に、真夏日(最高気温30℃以上)の熱中症による救急搬送リスクが他の日(最高気温30℃未満)より約4倍大きいことがわかりました。この結果は、体が暑さになれていない春期30℃以上になると、熱中症による救急搬送のリスクが急激に高まることを示しています。
近年、4月から5月の真夏日の日数が増加傾向にあり、夏だけでなく春の熱中症に対する注意喚起も必要であるといえるでしょう。年代別にみると、救急搬送の3分の2は高齢者でした。高齢者は、汗をかきにくく、暑さやのどの渇きを感じにくい傾向があるためと考えられています。熱中症対策においては、高齢者への配慮も重要なポイントです。
また、5月8日以降、新型コロナの感染症法上の位置づけが変更され、行動様式が大きく変化することが予想されます。今年はこの影響も考慮する必要があるでしょう。
鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一
憧れのメジャーリーグ
WBCの日本対メキシコ戦は、春分の日の午前中にテレビ放映されたので、部屋の片づけをしながら観戦した。佐々木投手の160キロ越えの速球にはしびれたが、メキシコに先制され劣勢が続いた。7回に、同点に追いついたが、また、8回に2点を追加され、もうだめかと思っていたら、最後の最後にあの村上(神)様の逆点サヨナラ打で、決勝へ進出。そして、本場アメリカのメジャーリーガーたちに臆することなく、14年ぶりの優勝である。野球の試合で興奮したのは、何年ぶりだろう。
WBCとはいいながら参加選手の多くはメジャーリーグに所属しているので、メジャーリーグ内での出身国別対抗戦という見方もある。それほど野球においてはメジャーリーグの存在が大きく、メジャーリーグは世界中の野球を志す人の憧れである。メジャーリーグチームとの親善試合やメジャーリーグのTV放映などで、日本のファンも多い。私も大学生のころ、世界最強のビッグ・レッド・マシンことシンシナティレッズの来日(1978年)に合わせた特集記事を読み、TV放映などで興味を持った。ピートローズ、ジョニーベンチ、ジョー・モーガン、ジョージ・フォスターなどの個性的な選手集団に魅せられた。週刊ベースボールに掲載されていた大リーグ特集記事を愛読していた。その中でメサースミス事件が大々的に特集されていたのを記憶している。調べてみると、ドジャースの投手メサースミスが1975年を未契約のままプレーし19勝をあげ、自由な身分であると主張して裁判となった事例で、フリーエージェント制度(6年以上メジャーリーグでプレーすれば、どの球団とも自由に交渉できる)が生まれるきっかけとなった事例だ。1880年代より球団、オーナーが有する権力として、保留規制というものがあった。保留規制は、球団が選手の賃金と労働条件を管理下に置き球団の許可なく他の球団に移ることができない‘奴隷規制’ともいわれていた規制です。これまでもたびたび訴訟となっていたが、その壁を打ち破ることはできなかったようです。メサースミス事件以降、この保留規制は廃棄、フリーエージェント制度が導入され、選手の年俸が高騰するようになった。その後、年俸高騰に対して球団側は対抗措置をとるなど、球団側と選手側との対立が激化し、1994-5年には、年俸の総額上限規制の問題で230日を超すプロスポーツ界で最長のストライキが発生した。メジャーリーグ存亡の危機と言われたが、この間メジャーリーガーの待遇改善はすすんでいったようだ。最近の労使交渉では、最低保証年俸が争点で、2022年70万ドル、2023年72万ドルと引き上げられている。尚、この労使交渉の基礎を作ったメジャーリーグ選手組合の初代委員長マービン・ミラーは、野球選手ではないが野球殿堂入りを果たしている。
メジャーリーガーの待遇改善の象徴として手厚いメジャーリーグ選手年金制度が知られている。引退後破産するメジャーリーガーが多かったことがその背景にあるといわれている。この年金制度は世界の野球選手がメジャーリーグに憧れる理由のひとつにもなっている。大谷選手の高校時代の夢は、WBCで優勝することとメジャーリーガーになりメジャーリーグ選手年金を満額もらうことだと紹介されている。
◇