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鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

新型コロナ感染症はどうなる?

 

今春、新型コロナ感染症患者数は減少し、終息かと思われましたが、オミクロン株の出現により、様相が一変しました。鳥取県でも、7月以降1日1000例を超す日もありました。8月末現在ようやく減少傾向にあるようです。「新型コロナ感染症の終息はいつ頃?」「新型コロナ感染症は今後どのうなるの?」と聞かれると、著名な医学系国際誌の記事を紹介するようにしています。「新型コロナウイルス感染症のパンデミックの 3 度目の冬が北半球に迫りつつあり、専門家は疲れ果てた政府と国民にさらなる波に備えるよう警告しています。このパンデミックの将来を予測できると言う人は、自信過剰か嘘つきです。
専門家はまた、南半球のオーストラリアでの動向を注意深く見守っています。オーストラリアは、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの季節流行が復活し、病院が圧倒されています。」南半球のオーストラリアでは4月以降インフルエンザが流行し、さらにオミクロン株の新型コロナ感染症患者の急増により医療機関が圧迫されているようです(8月は落ちついてきているようです)。今後、我が国の新型コロナウイルス感染症がどうなるか予測はできないのですが、他の感染症の流行と重なることも考えられ、発熱者の増加、医療逼迫への備えは必要のようです。現在、新型コロナウイルス感染陽性者の全数把握の見直し、自宅待機期間の短縮、抗原検査の利用促進・ネット販売等が行われようとしています。

また、日本小児学会からは、5歳∼17歳のワクチン接種が推奨されています。職域においても今一度、職場での感染対策を見直し、備える必要があるでしょう。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

人生100年時代到来?

「人生100年時代」とは、ロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットが『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』で提唱した言葉です。世界で長寿化が急激に進み、先進国では2007年生まれの2人に1人が100歳を超えて生きる「人生100年時代」が到来すると予測し、これまでとは異なる新しい人生設計の必要性を説いています。日本の場合はさらに長寿傾向で、2007年生まれの半数が107歳まで生きると予測されています。この予測は、将来の死亡率の変化(低下傾向)も推定して行うコーホート平均寿命で、従来の平均寿命よりも長くなりますが、実態をより反映していると言われています。日本がこのように長寿国のトップとなる理由としては、戦後の社会の安定と経済発展を背景にした乳児死亡率の著明な改善に加え、中高年の慢性疾患対策による死亡率の減少、さらに最近では90歳代など超高齢での死亡率の減少が要因と考えられています。また、日本人の食習慣(米が主食で、魚や野菜の摂取量が多く、低カロリー、低脂肪)や、国民全体が健康への関心が高いことも長寿に貢献していると考えられています。長寿の影響は産業保健分野でもみられ、この分野の対象者が、従来の生産年齢人口である15歳~65歳から、現在では22歳~75歳と高年齢にシフトしています。そのため、産業保健の中心的課題が、従来の労働災害・職業病対策から、生活習慣病対策や治療と仕事の両立支援などへと変化しました。

ただ、「人生100年時代」という予測は、やや楽観的すぎるという見方もあります。ウクライナ情勢のような社会・経済的不安定性、新型コロナのような新興感染症、気候変動による干ばつ、水害、熱波等の不測の事態が阻害要因と考えられています。わが国でも気候変動による熱中症が脅威となっていますが、数年前、私(大学の教員時代)たちは、7月~8月の夏季に最高気温が37℃を超えると、熱中症による救急搬送リスクが真夏日の17倍まで上昇するという試算を行いました。ただ、今年は6月に最高気温が40℃を超えることがあり、地球環境の変化は私たちの想定を超えています。「人生100年時代」到来のためには乗り越えなければならないハードルがいくつもあるのではないかと考えています。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長 黒沢 洋一

 

本年7月1日より能勢隆之前所長の後任として所長に就任いたしました黒沢洋一です。私は、1977年に鳥大医学部に入学するため、四国・香川県より山陰の地に来ました。同医学部を卒業後、公衆衛生学教室(現在の健康政策医学分野)の助手に採用され、それ以後、公衆衛生、産業保健をテーマに医学教育・研究に従事してきました。同分野の教授を約16年間務め、今春定年退職いたしました。今後は、鳥取産業保健総合支援センターの発展に努める所存ですので、よろしくお願い致します。

産業保健の課題は時代の流れとともに変遷しています。労働災害防止や職業病(鉛中毒、有機溶剤中毒、振動障害、じん肺など)予防から、近年は生活習慣病やメンタルヘルスなど一般的な疾患を視野に入れた健康管理が中心となっています。ごく最近では、新型コロナウイルス対策が喫緊の課題となりました。2019年末中国において新たに発生した新型コロナウイルス感染症は、瞬く間に世界中で流行しました。その感染対策として、これまでの社会的習慣や生活様式の変更を迫られ、職場においても働き方の大きな変更が求められました。マスクの着用、3密の回避のためテレワーク・遠隔会議の推進、時差出勤、面会・会食・宴会の制限が行われ、換気の徹底、海外・県外への移動制限、職域ワクチン接種などの感染対策が行われました。新しい働き方であるテレワークでは、メンタルヘルスの観点から問題が指摘され、産業保健上の課題となっています。本感染症の流行は3年目を迎え、感染者数は依然として高止まりですが、重症化率や死亡率の低下がみられています。このため、制限が緩和された欧米の状況も考慮され、わが国でも徐々に制限が緩和される傾向にあります。産業保健分野も、これまでの感染対策の評価・見直しを行いつつ、従来の産業保健の課題である、職業病の予防、生活習慣病対策、メンタルヘルスに加え、働き方改革、治療と職業生活の両立支援等への対応が求められています。様々な課題がありますが、産業保健は「あらゆる職業における労働者の最高度の肉体的、精神的ならびに社会的健康を維持増進し、作業条件に基づく疾病を予防し健康に危険な作業に就業させないようにはかり、労働者を生理的にも心理的にも適合した職業環境に配置して就業せしめること。」(WHO、ILO)が基本理念であることに変わりはありません。

当センターは、産業保健の今日的課題とその基本理念を踏まえ、産業保健関係者の皆様への支援と、職場の健康管理への啓発に尽力いたしますので、ご理解、ご協力のほどよろしくお願い致します。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

「新しい資本主義」ということが提言されていますが、その詳細は明らかになっていません。労働関係分野の内容には、「働き方改革」に含まれていなかった男女の賃金格差の解消などが含まれているようです。このことを実現するためには、1日8時間の労働時間などにこだわらない多様な雇用形態の確保と、公正な待遇の確保のため賃金算定方式の導入など、今までの労働基準法のルールなどを変更しないと対応困難であると考えます。

そして、日本の経済は、高度経済成長期によく言われた、「働かざる者食うべからず」という勤勉で人生をかけてモーレツに働くことを美徳とした日本文化に支えられて、右肩上がりの経済大国に発展を遂げました。しかし、長時間労働は当たり前と考え、労働者を酷使してきたことを改善しなかったため、次の世代には受け入れられず、労働生産性が低下し、先進国の中でも生産性が低い位置になっています。

そして、世界経済の動向は当然日本の経済活動及び労働環境に大きく影響を与えますので、産業保健の分野においても注視しておくことが必要です。例えば、世界で大流行(パンデミック)したコロナ感染症により、日本でも起こったコロナ禍の生活不安の改善策としてとられた政策の一つに、定額給付金(国民一人一人に10万円給付)の支給など、財源を国債の発行や税収入としているため、国の借金が増加し、ひいては国民の経済にも影響が現れることが考えられます。

また、財政再建にマクロ経済理論の考え方を取り入れ、自国通貨を発行している国はいくらでも貨幣を刷って(金本位制を変える)借金しても良いという政策が行われています。退職後の年金への影響がこれもまた心配です。

そして、テレワークなど、IT化(デジタル化)によって業務効率化(人と人とのコミュニケーションが希薄になる)が、多くの業種で活用されるようになりました。

特に社員同士の結びつきが強い中小企業等の日本型企業体質には、仕事の成果のみを評価し、結果の良いものが高い給料を得るという、いわゆる生産性を重視する欧米型合理性はなじみにくいと思います。

また、ロボットやコンピューターを活用した生産性向上に重点をおいた生産方法は、労働形態に影響が出てくるものと思います。
その上、今はロシアとウクライナの対立で始まったウクライナ戦争に、NATO諸国などが巻き込まれていますが、資本主義と社会・共産主義、自由主義と専制主義、それに内在する民族対立など社会政治体制の対立が第二次世界大戦のときのように再び世界の秩序を混乱に巻き込み始め、終息の予測が見込めない状況です。しかし今後どのような新しい秩序になろうとも、また、新しい感染症とも共存して世界が不況から脱出するには、人間社会は経済・産業の発展が無くては持続しません。そして、産業の復興には、労働力の再生、維持、向上が必須です。更にそのためには、どんな状況であろうとも労働環境を快適に維持することが必要です。

いうまでもなく産業保健事業は、働き方改革の基本的考えのように、人間である労働者が快適で楽しく働ける労働環境を構築することを目指しています。

私の所長のページは、今月で最後になりましたが、鳥取産業保健総合支援センターは産業保健発展のために事業を継続して推進してまいります。
皆さまにおかれましては、当センターを引き続き活発にご利用いただきますことを期待してお礼と致します。長年ありがとうございました。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

新入社の皆様、お仕事に慣れましたでしょうか。

4月に入社の人は1カ月が経過し、今実施している作業が、自分が入社前に考えていた作業内容とほぼ一致している場合は良いのですが、“何か違うな”と感じている人がいませんか。また、自分で採用前に考えを持ち、仕事のイメージを持っていたのに、その仕事内容と異なると思っている人はいませんか。

このような状況にある場合は、これを放置したまま勤務を継続していると、「この仕事を続けてよいのか」とか「この仕事は出来ない」と考えるようになることがあります。このままだと気が付かないうちにメンタルヘルス不調に陥り、場合によっては退職に繋がることもあります。このような状態を「五月病(スチューデント・アパシー)」といいます。これは、精神・身体的にはどこにも異常を自覚しないのに、特有な無気力状態となり、情緒的なひきこもり、競争心の欠如、社会的活動ができない現象が現れます。

これらの状況は、日常優秀で、真面目で、内気であり、完璧主義を求める人に現れやすいと言われています。時々、新年度になり、昇進し上司となった人に五月病が発生すると、部下にきつくあたったりして、部下や周囲の人が困惑します。また、新入社員が五月病に陥ると、周囲の人とのコミュニケーションが取れなくなって、精神的におかしいのではないかと誤解されるようなことが起こります。

また、近年、日本の産業構造や経済社会が急速に変化したことや、国民一人ひとりの労働についての考え方や就業意識(終身雇用制ではなく、有期契約による就業条件を好む人が現れている。)などが変化し、昭和22年施行以来の「労働基準法」を基準とした労働条件では対応できなくなっています。

その上、「働き方改革」の普及により、ダイバーシティ(仕事に従事する場合に資格や経験などを考慮して受け入れ、幅広く活動できるようにする。)の推進による対応の不慣れや、有給休暇や育児休暇を積極的に取得するように勧めることにより勤務体制の改善がなされないまま、対応不十分による混乱などが起こっています。

また、ある調査によると労働者の多くが仕事や職業生活に関することで「強い不安、悩み、ストレスがある。」などを訴える結果が報告されています。

労働者のメンタルヘルス不調は、職場の生産性に大きく影響を与えるだけでなく、労働者の生活全般に支障をきたすことを考慮し、その対策の一環として、平成27年よりストレスチェック制度が導入されています。この内容は、労働者個人の現在のストレス状態や職場全体のストレス要因を推測するため「仕事のストレス要因」「心身のストレス要因」「周囲のサポート・満足度」を自己記入方式で調査します。ストレスに個人が気付くことを促し、まずセルフケア、そして産業医などの面接指導により、メンタルヘルス不調の改善に役立てるとともに、集団分析を活用して、職場環境改善を目指します。これらのメンタルヘルス対策の制度を積極的に活用して、五月病の予防のみならず、快適な職場環境づくりに努めましょう。