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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

本年4月より新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止を目指して、医療従事者などに続き高齢者を対象にワクチン接種が始まりました。次いで、65歳以下の方を対象に接種が実施されるようになると思います。今までは認められていませんでしたが、事業場においても産業医による接種も検討されているようです。そのため、事業主をはじめ衛生担当者は、新しいワクチンの正しい知識を習得しておくことが必要と思います。

予防接種法においてワクチン接種の目指すものは、国民の多く(60~70%)が抗体を保有し、病気の流行を抑制しようとするものであり、かつ国民一人一人が病気に感染しにくい体質を獲得することにあります。法による定期予防接種などは、国民に理解と協力を求めて予防接種を受けるように努める(努力義務)ことをすすめています。今回実施されるコロナウイルス感染予防のための予防接種も義務ではありません。労働者が作業環境や作業内容に応じて自分の意志でメリットやデメリットを考慮して接種を受けるかどうかを判断し、行動することが肝要です。そのため事業場においても、労働者にワクチン接種の必要性やどんなものであるかを学習してもらう機会をつくることが必要です。

今までのワクチンは、生弱毒性微生物を体内で増殖させ人体の免疫系を刺激して抗体をつくる生ワクチン(BCG、風疹、水痘など)と、ホルマリンなどを添加し微生物の免疫抗原性をそこなわず無毒化した不活化ワクチン(ポリオ、百日咳、日本脳炎、インフルエンザ,B型肝炎、肺炎球菌など)の2種類を活用していました。

このたび新しく開発されたワクチンの仕組みには、人工的につくった新型コロナウイルスのスパイク蛋白質全長をコードするmRNAといわれる遺伝物質を脂質の膜に包んだワクチン、あるいは比較的病原性の弱いウイルスをベクター(運び屋)として利用したウイルスベクターワクチンの2種類があります。接種されたワクチンは、細胞に取り込まれ新型コロナウイルス蛋白質が産生されます。このウイルス蛋白質は免疫システムによって異物と認識され、特異的な中和抗体が産生されます。それによって新型コロナウイルスに感染しても、ウイルス量や抗体産生能力にもよりますが、たとえ発症しても重症化しないといわれています。海外で開発された新型のワクチンですので、抗体の産生能力や効果の持続期間も日本においては明確ではありません。またデメリットとして副反応(重いアレルギー反応、発熱など)がおこることもありますので、リスクとして十分に了解しておく必要があります。

感染の拡大を阻止するには、感染者(無症状の抗体検査陽性者を含む)を早めに発見するため、日常的に抗体検査を受けることのできる体制をつくっておくことが必要です。しかし、公衆衛生対策を実践する機関で社会共通資本である保健所や衛生研究所が行政改革などによって削減されているのが現状です。今後国は予防医療体制を市場にまかせるのではなく、公に体制の整備をしておく必要があります。

たとえワクチン接種したからといって感染しないわけではありません。自己防衛は依然として必要であり、3密(密接、密集、密閉)を避け適切にマスクをして作業従事することを忘れないで下さい。


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策として感染が広がっている都道府県に「まん延防止等重点措置」や再び「緊急事態宣言」が発令されています。

宣言に伴い、国は大型商業施設、遊興施設や飲食店などの各種事業者に対して休業や酒類提供などの全面自粛などを要請しています。各々の事業場には今までどおり、いわゆる3密(密接、密集、密閉)を回避するとともに次の5つのポイントすなわち、①テレワーク、時差出勤の推進 ②体調がすぐれないときに気兼ねなく休めるルールの設定 ③職員間の距離の確保、定期的換気、仕切り、マスク着用しての作業 ④手洗い、手指消毒 ⑤休憩所・更衣室の混雑緩和などを確認するように求めています。

ところで政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、緊急事態宣言を発令するための条件として、「感染状況の悪化の予兆を早期に探知し、即座に対応するための概念(根拠)」を4段階のステージで設定しています。第1ステージ(感染散発)、第2ステージ(感染漸増)には特に指標はありません。医療提供体制の機能不全を回避するため、指標として第3ステージ(感染の急増)、第4ステージ(爆発的感染拡大)を設定し、第4ステージでは宣言を発令することにより、自動的に感染防止対策を強化(休業要請など)して医療の逼迫を回避することを可能としています。

このような対策をとる考え方は、株式市場の「サーキットブレーカー制度」という方法を参考に応用したものです。これは株の価格が一日のうちに一定以上大きく変動した場合の混乱を避けるため、あらかじめ株価の高値と安値の幅をきめておき(値幅制限)、それに達するとストップ高、ストップ安として株の売買を一時的に停止する仕組です。

この考え方を応用して感染拡大の混乱を避けるため、①病床の逼迫具合 ②療養者数 ③PCR陽性率 ④新規報告数 ⑤感染経路不明者割合などの5つの指標を決めています。コロナ感染はゼロにならない(ウイズコロナ)状況下で、これらを基にして指標の値が高く(悪く)なったら宣言を発令し、一定の値まで低く(流行減少)なったら宣言を解除するという条件を決めておくと、自粛させられた事業者や国民も少しは安心すると推測されます。

しかし、残念ながらこれらの指標も衛生統計システムが確立されていないため、どうしても不正確にならざるを得ません。その上、政治的判断に任せるとどうしても経済的影響を優先する傾向があります。そのため、あらかじめ宣言解除などの出口(指標)を決めておくことが必要となってくるのです。各事業場においても、従業員が感染した場合にそなえて対処方法をあらかじめ決めておき、疫学調査(接触者の処遇のため)としてのPCR検査を徹底し、感染拡大が予測されたら早目に休業措置をとるなど、感染機会を減少することが先決です。

このような早目の措置をともなった対策が、危機を回避でき事業の継続を可能にするものと思います。

 

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

新年度が始まりました。新しく採用されました新入社員の皆様、御就職おめでとうございます。

すべての労働者は職業生活の全期間を通じて、労働基準法および労働安全衛生法などの労働関係法令によって健康で安心して働くことができるよう、健康の確保のための施策が執られることになっています。労働者の健康管理を実施するために、産業保健という医学・医療・保健分野があります。これは単に労働者の健康・安全管理について業務を実施するのみでなく、社会・経済・文化などを総合的に考慮して労働者の健康を確保することを目指しています。

鳥取産業保健総合支援センターは、産業保健分野について国が立案して実行する施策に関連した事業の内容を紹介・解説したり、健康相談事業や産業保健関連従事者、労働者を対象とした研修事業などを実施しています。産業保健分野に関する事項は、作業管理、作業環境管理、健康管理など多岐にわたっています。

今月は、事業場で健康管理を実施するために、いま世界が直面している新型コロナウイルス感染症について、労働者が知っておかなければならない内容の一部を解説します。

コロナウイルスはエンベロープという膜に覆われていて、この膜に太陽のコロナ様の蛋白質がスパイク状に着いています。これが人間などの宿主細胞側のACE2受容体(気道粘膜細胞の表面に多くある)と結合して、人の細胞内に侵入して感染をおこします。またコロナウイルスは比較的容易に変異しやすいmRNAウイルスですので、人体にできた生体防御をする抗体を回避して感染を拡大し、地球上でいつまでも一定の感染者数を維持しながら変異株コロナウイルスとして常在流行することが懸念されます。

感染拡大の最大の要因は無症状者(健康保菌者)や症状の軽い人が自由に移動することによっておこることなどが考えられています。人から人への感染は病気の発症前2~3日前からおこるとされています。これらの人が発症前に家族などの近親者と接したり、飲食店などで宴会に参加し、密となり、クラスターを発生させます。また、御見舞い等で高齢者施設を訪ね、そこで感染弱者に感染が広がり、重症患者が発生することになります。このことが危惧されますので、新入社員歓迎会などは自粛された方が良いと思います。

新型コロナウイルスは、感染症法の指定感染症と位置付けられているので、法律に則り、必要な措置が実施されます。発病者はもちろんPCR検査陽性者も隔離処置が必要です。行政(保健所など)は濃厚接触者について調査を行います。労働者が濃厚接触者になるとPCR検査(ウイルス遺伝子を保持しているかどうか確定する)を受けることが指導されます。陽性と判定されると労働者自身も隔離措置がとられ、会社、仕事場および同僚などに迷惑をかけることになります。会社員としての自覚をもち、意識を変えることと行動の変容が必要です。

たとえば感染を広げないために日常的に3密を避け、飛沫感染を予防するためにマスクを着用すること(コロナウイルスが唾液の中に生存し、感染者と会話すると5㎛以上の唾液粒子が飛沫として飛散するので、不織布マスクを着用することは飛散を減少させます。)は、自分が感染しないことだけを考えたものでなく、人に感染させないエチケットです。

感染拡大の予防のためにワクチン接種が行われています。しかし前述のように変異株が多種流行していますので、今流行しているコロナウイルスに対する抗体が確立されたとしても変異株ウイルス感染予防・重症化防止にどれだけ効果があるのか分かっていません。またウイルスがヒトの免疫を回避した場合も考えられるので、ワクチン接種にたよらず、感染拡大予防のための基本的な予防行動を行うことが大切です。

職場で従業員みんなが正しい理解を進め、職場の感染予防対策の良い実践訓練となることを期待しています。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

新型コロナウイルス感染症の予防と感染拡大のために新しく開発されたワクチンの接種が、令和3年2月から政府の対策として国民に実施されています。

まず海外で開発されたワクチンですので、日本において接種予定のすべてのワクチンの有効性、安全性などが認可されることが必要です。その上で国民に接種が開始されると考えています。接種の方策の一つとして、事業場で産業医等から労働者へ予防接種をすることが話題となっています。急に産業保健分野の業務と関連するような雰囲気になったので種々の課題について述べてみます。

従来より事業場において、主に労働者の感染を防止するために予防接種が行われています。例えば、季節性インフルエンザの予防のためであったり、個人防衛を目指して医療従事者などに肝炎ワクチン接種を行っています。(医療従事者が肝炎に罹患した場合は、就労に起因されると認定されると労災認定となります。)

現行の予防接種は、被接種者に対して「受けるように努めなければならない」という努力義務となっています。そして国および地方公共団体は国民に対し、予防接種について対象疾病の特性、接種の必要性および有効性、その他について啓発する必要があるとされています。今回の新型コロナウイルスのワクチンについては、海外で開発され、今までのワクチンのように生ワクチンや不活化ワクチンとは製造過程が異なり、ウイルス遺伝子の一部を増幅してつくった蛋白を活用したワクチンですので、有効性(抗体産生能とその持続性はどれだけあるかなど)や長期、短期の副反応の程度(身体影響および発がん性の有無)など未知のことが多く、国はこれらのことを科学的に明らかにし、説明することが必要です。

事業場のBCP(事業場で労働者自身の感染予防と同僚への感染拡大を予防して事業の継続を可能にすること)のためにも、事業場単位の接種は必要なことであります。また、このことにより事業場内のみでなく、社会全体の拡大防止につながると思います。しかし、事業場での予防接種が実施されるのであれば、産業保健で取り扱う安全配慮義務の一環として、労使でワクチン接種について意義などを共有することが必要であります。健康でかつすでに抗体を保有しているかもしれない労働者に接種することになりますので、ことさらに安全性については留意することが必要ですし、副反応が発生した場合の責任のあり方等については明確にしておくことが肝要です。

 


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鳥取産業保健総合支援センター 所長  能勢 隆之

 

厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症対策を法的扱いにするため、暫定的に昨年1月に「指定感染症」に位置付け、今日まで対策を行ってきました。しかし感染が拡大し続けているため、政令を改正し、その暫定的措置を来年の1月末まで延長しました。この政令により、感染者(PCR検査陽性者など)となると、当局は無症状の者でも入院勧告や就業制限ができる(強制ではない)ことや医師による感染者発生の届け出などが必要となり、検査や治療が公費負担となります。政令が延長されたのは、指定感染症でなくなると、感染の広がりの把握が困難になることや入院措置がとれなくなり、コロナウイルス感染の蔓延に歯止めをかけることが難しくなると思われるからです。

しかし、入院措置をとるためには陽性者を医療機関等に受け入れる体制が整っていることが必要ですが、感染症患者用の病床は今までに十分に設置されているわけではありません。また、医療従事者も感染症対策の知識を十分に熟知しているわけではありません。病床やそのためのスタッフを確保することはたやすくなく、患者が増加すれば病床が不足することはいうまでもありません。

また、外出自粛や3密(密接、密集、密閉)にならないように要請しても感染拡大は進み、感染者の多発地域を中心に全国バラバラに緊急事態宣言を出しても効果を期待するのは難しいと思われます。また、20時以降の会食制限ではコロナは昼間も活動していますし、4人以下でも接触したり、飛沫を受ければ感染しますので終息は困難です。

もともとウイルスは地球上の生命体の誕生とともに存在していて、人類の遺伝子にもウイルス由来の塩基配列が組み込まれていることが分かっています。自立的に自己増殖できないコロナウイルスは人類や他の動物に感染・寄生し、宿主(人間)と適切に共存を図るときに良好な関係で共生できます。しかし、今回は中国から発生したといわれていますが、コロナウイルスが宿主を攻撃するような変異株(自然又は人為的?)に変化し、人類はウイルスを撲滅するように治療薬を開発して対抗しようとしますが、RNAウイルスは耐性株に変異し、さらに毒性の強いウイルスに変わり活動を続けます。流行は続き、第3波のあとには変異株をもったコロナウイルスによる第4波がおこることが予測されます。我々人間(宿主)は、ウイルス攻撃に耐えるため体内に抗体を確立して可能なかぎり長く免疫を維持し、世界の人々に集団免疫ができることを期待するしか解決の道はありません。

各事業場においては健康診断を受けて体調をチェックしておくことと、健康づくり(運動、休養、栄養)を労働者にすすめ、自らが日常より健康管理に努めるようにしましょう。