平成19年度調査研究報告(抄録)

事業所における長時間労働とメタボリック症候群の認識や対策に関する調査

主任研究者 鳥取産業保健推進センター 相談員 黒沢 洋一
共同研究者 鳥取産業保健推進センター 所 長 川﨑 寛中
鳥取大学医学部健康政策医学分野 講 師 小谷 和彦

Ⅰ.はじめに

 平成18年度より、長時間労働を行った従業員に対し医師による面接指導(過重労働に対する面接指導)が開始され、平成20年度からはメタボリック症候群を中心とした特定健診・特定保健指導の導入が予定されるなど、産業保健分野での健康障害の防止対策に大きな変化がみられる。このような状況のなかで、産業現場への支援を行うための基礎資料とするため、鳥取県内の事業場および産業医に対して、過重労働に対する面接指導制度、メタボリック症候群及びそれらに関連するメンタルヘルスに対する取り組みを調査した。

Ⅱ.調査対象と方法

 鳥取県内の従業員50名以上の497事業場および産業医361名を対象とした。調査は、鳥取産業保健推進センターが、鳥取大学医学部社会医学講座健康政策医学分野の協力を得て行った。無記名方式の質問調査票(過重労働に対する面接指導制度、メタボリック症候群、メンタルヘルスの認知度、実施状況)を用いて、平成19年9月1日現在の状況について回答を求めた。なお、調査票は対象者へ郵送し、期日までに調査機関に直接返送する方式を用いた。実施期間は平成19年9月1日~平成19年10月5日とした。質問調査票の回収率は事業場及び産業医でそれぞれ50.7%(252社)と43.2%(156人)であった。

 

Ⅲ.調査結果

(1) 事業場に関する調査

対象事業場の内訳

 回答のあった事業場 252社の規模は 50人~299 人(81%)が多かった。業種別ではサービス業(医療・教育を含む)が最も多く 61社、次いで電気・機械・金属製品製造業の44社であった。

 事業場における産業保健活動

 衛生委員会の開催状況(過去1年間)は、「毎月開催」が153社(60.7%)、「年に数回開催」が61社(24.2%)、「開催なし」は35社(13.9%)であった。産業医の来社回数が「月1回以上」の事業場は 88社(34.9%)、「年に数回」が89 社(35.3%)、過重労働についての審議をしたことがある事業場は130社(51.6%)であった。

 過重労働に対する面接指導制度の認知度と実施状況

 1ヵ月に100時間又は2~6ヵ月に平均80時間を超える時間外労働が過去1年間にあった事業場は 49社であり、現在はないが今後可能性のある16社を加えると 65社(25.8%)であった。「当該時間外あり」の 49社のうち、過重労働に対する面接指導制度が「ある」のは 31社(63.3%)、現在検討中の7社(14.3%)を合わせると 77.6%に制度があり、実際に面接が実施されたことがある事業場は 25社であった。

 特定健診・保健指導の認知度と保健対策実施状況

 メタボリック症候群の診断基準は 163社(64.7%)が「知っている」と回答した。平成20年度より職域の特定健診・特定保健指導が導入されることは 142社(56.3%)に認知されていた。従業員のメタボリック症候群の羅患状況を把握している事業場は 44社(17.5%)であった。 現在、メタボリック症候群に対する保健対策を講じている事業場は 70社(27.8%)で、対策で多いものは、「分煙・禁煙」(70.0%)で、次いで「健診での腹囲の測定」「運動指導・体操」(38.6%)等であった。対策を講じていない事業場 182社のうち今後保健対策を講じようと考えている事業場は 97社(53.3%)であり、今後講じたい対策として多かったのは「健診での腹囲の測定」(63.6%)、 「分煙・禁煙」(46.6%)、「運動指導・体操」(40.7%)、「講演会への参加・開催」(37.3%)であった。
 

 メンタルヘルスの保健対策の実施状況

 メンタルヘルスに関連した保健対策を講じている事業場は 104社(41.3%)、対策を講じていない事業場は 146社(57.9%)であった。対策を講じていない事業場の理由として多かったのは「必要性は感じるが、方法がわからない」や「必要性は感じるが、専門家やスタッフを確保できない」であった。また、「こころの健康づくり計画の策定」が行われている事業場は 12社(11.5%)ときわめて少なかった。

 産業保健推進センターに期待するサービス

 最も要望が多いのは「メタルヘルスに関すること」(58.7%)で、次いで「メタボリック症候群の健診・保健指導に関すること」(48.4%)であった。

 

(2) 産業医に関する調査

 過重労働に対する面接指導制度の認知度と実施状況

 「現在産業医として活動している」と回答のあった 117名のうち、面接指導制度があることを知っているのは 89名(76.1%)、実際に面接指導を行ったことがあるのは 40名(34.2%)であった。面接指導の対応として最も多かったのは「過重労働をやめるように上司に伝えた」(56.4%)であった。

 特定健診・保健指導の認知度と保健対策

 平成20年度職域の特定健診・保健指導が導入されることを認知しているのは 101名(86.3%)であった。従業員のメタボリック症候群の羅患状況を把握しているのは 38名(32.5%)であった。保健対策を講じている産業医は 35名 (29.9%)であった。

 今後取組みが必要と思われる課題

 今後、取組みが必要と思われる課題は、「生活習慣病関連因子の改善」が 64.1%と最も多く、次いで「健康診断結果の有所見率の低下」( 53.8%)、「身体的・精神的な疲労などのストレス感の減少」( 41.0%)、「職場における分煙・禁煙」 (36.8%)であり、「メンタルヘルス対策」と「長時間労働対策」は 35%であった。

 

Ⅳ. 考察とまとめ

 長時間労働を行ったか今後行う可能性のある事業場は全体の4分の1であった。「当該時間外あり」の 49 社のうち約 8 割が「長時間労働を行った従業員に対する面接制度がある」あるいは「面接制度を現在検討中」と回答した。全体では約 1 割の企業で、実際に面接指導が行われていた。産業医では 40名(34.2%)が実施したと回答した。徐々にではあるが制度が浸透し、実施され始めているといえる。

 職域の特定健診・特定保健指導が導入されることについては事業場で約 6 割、産業医においては約 9 割で認知されていた。現在メタボリック症候群に関する保健対策を講じているという事業場は 70 社で、今後行いたいと考えている事業場 97 社を合わせると全体で 167 社(66.3%)となった。今後講じたい対策で多かったのは、事業場、産業医とも 「健診での腹囲の測定」、「運動指導・体操」、「講演会」、「分煙・禁煙」であった。

 メンタルヘルスが事業場のニーズとしてきわめて大きいことがわかった。メンタルヘルスに関する知識の啓蒙、具体的な方法および専門家やスタッフ確保に関する支援を通じて「こころの健康づくり計画の策定」を援助していく必要があると考えられる。


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